全ビジネス人必見「会社はこれからどうなるのか」岩井克人著の感想 | 生き残るビジネスの条件

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コーポレートガバナンス論の高まりを受け、「会社は誰のものか」を思想的、法律的、実務的な点から経済学者が本気で考えた良書です。

投資家や上場企業の経営者はもちろんコーポレートガバナンスの知識を深めることができます。

しかしこの本はそれだけではありません。

「会社は誰のものか」に答えた上で、資本主義と会社の「これまで」と「これから」を分析して、
今後生き残っていく企業、淘汰されている企業を断言してしています。

その前にはまず資本主義の構造と発展を理解する必要があります。
岩井克人氏によれば、資本主義は3段階に分けられます。

商業資本主義

同じ商品でも異なる地点なら価格が違うことを利用して、異地点間での交易によって利益を得ること。
大航海時代やシルクロードなども、地元で取れるものを別の地域で売れば儲かるから交易が栄えた訳ですね。

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私の地元は札幌ですが、隣街の小樽は戦前は経済的に大繁栄していました。地元で獲れたニシンなど海産物を、北前船で北陸などと交易して成功したのです。
(有名な小樽運河と石倉倉庫は、海から船のまま陸に乗り入れて交易したり、生鮮モノを保存するための非常に優れたシステムです。)

人口20万人の小さな街に、現在の資産価値で100億円〜1兆円クラスの資産家が100人以上いたと考えられています。
今でも瀟洒な豪邸がいくつか残っています。

これも全て、「異地点間の価格の差異が利潤になる」という商業資本主義です。

産業資本主義

次に産まれたのが、「賃金の差異が利潤になる」という産業資本主義です。
つまり人件費の安い場所に工業の拠点を構え、アダムスミスの分業を参考に効率的な生産体制を組織します。

そうすれば生産性が上がり、低賃金のためコストも抑えられ、結果として安価大量生産が可能になる訳です。

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蒸気機関による産業革命でこの流れが生まれ、人口増加で一般消費需要が増加し、同時に世界大戦によって重工業需要の高まりを受けて、産業資本主義は大きな成功を収めました。

日本の高度経済成長で電機・自動車メーカーが世界を席巻したのも、今の中国・台湾・韓国の電機メーカーの強さも産業資本主義の賜物です。

ポスト産業資本主義

今の情報社会がポスト産業資本主義です。

商業資本主義も産業資本主義も、需要多過・供給不足の時代は良かったのですが、今は消費者の目が肥えています。
大量に安く作れば売れる時代ではなく、消費者個人のニーズを満たさなければなりません。

そこで必要とされるのは「今と未来の価格体系の差異を先取りしたサービス」です。

グーグル

グーグルは、検索、地図、メール、広告掲載システム、サイトのアクセス解析サイト、動画配信サイトなど、驚異的に有益で使いやすいサービスを、無料で提供しています。

従来なら「ITのライバル企業がサービスを切磋琢磨しならが価格競争をして徐々に値崩れを起こし、結果的に無料に近くなっていく」というプロセスを挟むのが普通でしたが、グーグルはあえて初めからサービスを無料で公開することで、その競争プロセスをすっ飛ばしています。

つまり、未来の価格体系を先取りしてしまうことで、顧客の獲得に掛かるはずの時間、サービス開発にに掛かるはずの時間を圧縮して、急成長しました。

このような時間移転ができるのは、商業や産業とは違って物理的な制約がない情報産業だからです。

 

情報産業では差異こそがますます価値を持ちます。
たとえば全く味も価格も変わらないリンゴを複数買うのはありです。
しかし、内容が全く同じ情報(本・DVD・スマホアプリなど)を複数買う人はいません。

食べ物や消費財のような実体はいくらあってもよいのですが、情報は絶対に一つで足りるのです。
新たに買う情報とは、今までとは違う情報です。
マイクロソフトのOSバージョンも、アップルの新型アイフォンも、従来品との差異があるから購入するわけです。

ポスト産業主義時代とは、「いかに情報の差異を生み出すか?」が利潤の源泉です。
情報の差異とは、人間の知能が創り出します。

だから、優秀なエンジニアやサイエンティストが重宝されます。
人間の知能を代替してくれる人工知能も開発する必要があります。

技術者集団であるグーグル、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブックなどの情報産業は繁栄し、商業や産業に固執している企業は取り残されていくでしょう。

情報の差異化に成功したケース

以前店頭で品切れを起こすほど流行したヨーグルトがあります。
なんでも「高機能ヨーグルト」といって、免疫機能を高める効果が期待されるという負込みでした。

ふつう、食品は味や価格で差別化します。
同じ価格の商品ならより美味しい方を買うし、同じくらいの美味しさの商品なら安い方を買います。

しかしこのヨーグルトは、「免疫」の効果を訴えることで成功しました。
今や「健康」「免疫」「美容」といった効果を売りにする商品は当たり前のように普及しています。

成熟した市場では、技術力もコスト抑制もほとんどブレイクスルーは起こらず、競合企業は似たり寄ったりになりがちです。

そんな超成熟した食品業界で、このヨーグルトがヒットしたのは、新しい価値を生み出したからです。

その新しい価値とは、情報です。

つまり、元々のヨーグルトの美味しさや安全性に加え、近い将来インフルエンザにかかるリスクを抑え、快適な生活を送る可能性を高めるという付加価値を追加したのです。

未来のニーズを一番先に掘り当て、他社を出し抜いて商品化することに成功した会社が一番利益を得られます。
つまり、情報生産の能力に優れた会社が生き残ります。

優秀な情報企業が、どのように優秀な人材を集め、活用し、長期にわたって自社に引き留めておくか。
それを実現するために、会社の形態はどのような変化を辿ってゆくのか。

 

このように、コーポレートガバナンス論に加えて、情報社会の資本主義で生き残る条件を、実にわかりやすく解説しています。

その洞察は出版から10年経っても色褪せません。
知が試される時代の、資本主義論と会社論。

ビジネスパーソンなら、難しい戦略の舵取りの前に読んでおいても損はないです。

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