アナリスト村田
ファイナンス理論はMBAビジネススクールの方や金融関係の方などあちこちで聞きますが、本質を理解しなければ正しい経営につながるどころか、企業価値を損なう危険があります。
このような方は、ぜひ読まれることをおススメします。
- MBAや独学でファイナンス理論を学んでいる方
- ビジネススクールで勉強したファイナンスの知識を企業経営に生かしたい方
- ファイナンス理論と現場の乖離を知りたい方
第1章 ファイナンスは企業価値を創造しない―キャッシュを生まないものには価値はない
第2章 実務経験から学んだ理論と現実のギャップ―ファイナンス理論は鵜呑みにしてはならない
第3章 短期主義で企業価値を破壊する上場企業―こういう誤解をしていませんか?
第4章 上場企業が実践すべきファイナンスの10のポイント―すべきこと、やめるべきこと
第5章 かつての日本企業こそがめざすべきベンチマークである―番頭と長期的経営の復活がカギ
第6章 IPOをめざすベンチャー経営者へ―小さく始めて大きく育てよう
手島直樹氏は小樽商科大学のビジネススクール(MBA)で、准教授です。
経歴は慶応大学卒業後、外資系コンサルティングファーム→米ピッツバーグでMBA取得→日産自動車でゴーン社長のもと財務・IR担当と、実務と学問どちらにも通じた方です。
ファイナンス理論とは
皆さんは「ファイナンス理論」と聞いて、何を思い浮かべますか?
- 高度な理論や計算で企業経営を正しく導いてくれる武器
- 専門家が難解な用語で語り、よく理解できないが有効そうなもの
- 投資や収益の指標として企業価値を正しく計算する方法
このようなイメージの方が多いのではないでしょうか。
たしかに、ファイナンス理論とは、主に企業価値を分析し、理論株価を計算するための理論です。
- 資本コスト(資金の調達コストで、株主出資や時に有利子負債のコストも計算)
- リターンとして将来のキャッシュフローを予測
- 金利とリスクを差し引いた割引計算(DCF法)
このように、初心者からすれば白目をむきたくなるような計算をして、企業の適切な株価を計算しようとする理論です。
「専門知識が必要ということは、ファイナンス理論とやらはさぞかし正確で役に立つのだろう」
こう思われるかもしれませんが、むしろ真逆です。
たしかにファイナンス理論とは、専門知識も必要で、難しい計算方法も使います。
しかしだからと言って、必ずしも経営を改善し、企業価値を向上させてくれる魔法の杖ではありません。
むしろ、ざっくりとした指標として使うべきで、企業経営のよりどころにしてはいけません。
上の例はどれも完全な間違いではありませんが、
本気でファイナンス理論に全幅の信頼を置いているならあなたの会社は非常に危険です。
本書ではファイナンス理論やMBAなどの知識に頼りすぎることを、ファイナンスと実務の専門家の立場から指摘した画期的な本です。
ファイナンス理論の現実と問題
ファイナンス理論は便利に見える反面、多くの問題を抱えています。
ファイナンス理論は企業経営や投資など、つまり将来よりよい結果を得る目的がメインに使われます。
誰でも、将来の予測には熱心です。
企業経営者は時代の流れを読み業績のシミュレーションをしながら経営判断するのが死活問題です。
投資家も同じで、経営方針や事業戦略から、今の株価と企業価値を比べて投資判断をします。
しかし、このような未来予測は、どれほど頑張っても正しくできるはずがありません。
不確実性は決して取り除くことはできません。
災害、シェアリングエコノミー、AIの到来でビジネスに強烈なプレッシャーを強いられるケースもあります。
一か月後のことすらわからないのに、ファイナンス理論では、今後数十年にわたって企業の業績を予測し、「資金の調達コストはこの程度」「利益率はこのくらいのはず」などというわけです。
あくまでも予測であり、うまくいく保証はありません。
仮に予測が正しいのなら、ファイナンス理論の使い手やストラテジストは億万長者になっているはずですが、ファイナンスの大家である大学教授や証券会社の社員が成功したという話はあまり聞きません。
たとえばバフェットのような投資家が成功したのは、ファイナンス理論のような「不確実な未来を正しく予測しようとする愚かさ」を一切避け、むしろ、「未来を完全に予測できなくとも、確実に安全だといえる投資機会」にだけ絞ってきたからです。
手島直樹氏もたびたび指摘していますが、会計やファイナンス理論は、「PDCAサイクル」(Plan Do Check Act)のCheckの部分に過ぎません。
Checkは重要ではあるものの、企業価値はいくら会計数値を捻りまわしても向上するものではありません。
つまり企業価値を生むのは、あくまでも正しい行動(Act)です。
では、企業の価値はどのように決まるのでしょうか。
それは、将来にわたり受け取る受け取る顧客からのキャッシュと、将来にわたり企業がコストとして支払うキャッシュの差額の現在価値となります。
(中略)
商品やサービスをより多く販売し、顧客からより多くのキャッシュを得て、コストとして支払うキャッシュを減らすことができれば、企業の価値が高まります。
しかし、販売に関してもコストに関しても、この点でファイナンス戦略が役に立てることが非常に少ないのです。
(中略)
結局は、商品やサービスが魅力的であれば顧客が購入するでしょうし、社員が努力すればコストが下がるのです。
このようにキャッシュインフローとキャッシュアウトフローの差額の拡大に役立たない以上、ファイナンス戦略が企業価値の創造には無関係なのです。
(中略)
ファイナンス理論は、江戸の商人も実践していた当たり前の話をカタカナとアルファベットでかっこよく語っているに過ぎないと思ってください。
本書 P36
本業で企業価値はついてくる
では「ファイナンス理論はあくまで経営のオマケとして扱うべきだ」として、経営者はどのようなファイナンス戦略をとればよいのか?
手島直樹氏の提言は明快でシンプルです。
- ファイナンス理論は財務指標を操作する小手先の道具にしないで経営に集中する
- 企業価値を高めるのは、本業でのキャッシュフローに尽きる
ファイナンス理論は、うまく使えば資金調達コストを抑えたり、レバレッジを増やしてROEを高めることもできてしまいます。
しかしそれは企業の本来の価値であるキャッシュを稼ぐ力とは全く関係のない、ただの小手先のテクニックに過ぎません
そして、証券会社や投資銀行がそのような専門知識をぶら下げて金融商品やM&Aの営業にくれば、「金融機関の言うことも一理あるのかな」と思い、誘いに乗ってしまいます。
しかし、ファイナンスの知識では一枚も二枚も上手なのが金融機関の担当者です。
彼らは企業の正しい財務戦略よりも手数料に興味があるのは自明です。
経営者は、本業の経営を重視しなければなりません。
正しい株主還元
株主還元の戦略も明快です。
- 配当金は渋り、内部留保をコツコツ積み重ね財務基盤を盤石にする。
- よほど内部留保が溜まって投資先もない時のみ自社株買いで株主還元は充分
一つ目は、松下幸之助氏の「ダム経営」と同じです。
二つ目の具体例は、株主還元をしないことで有名なグーグルでしょう。
グーグルは自社株買いでニュースになるほど、株主還元せず成長投資を続けて来ました。
しかし株主はその稼ぐ力を評価しており、その証拠に、時価総額はアップルと長年にわたって世界1位を争ってきました。
稼ぐ力の指標では、ROIC(投下資本利益率)とFCF(フリーキャッシュフロー)を重視すべしと主張しています。
くわしくは別のページで解説していますが、どちらもなるべく会計のノイズを除いて、本業での稼ぎを正確に測ろうとする、非常に有用な指標です。
まとめ
ファイナンス理論はざっくりとした目安として使う限りはある程度活躍してくれます。
しかし、ファイナンス理論でできること、できないことはもちろんあります。
上場企業の経営者に求められるのは、魔法の杖としての小手先のファイナンス戦略ではなく、むしろ真逆で、「本業でしっかり稼ぐ」という当たり前のことです。
投資家は、経営者のそのような姿勢こそ評価します。
もし執拗にファイナンス理論などを駆使して株主還元を求めてきたら、
「企業としては不確実性に備えるため、適正な内部留保はさせていただく必要がある。また、利益や累積の内部留保も投資のために不可欠である。これ以上株主還元をしてしまえば成長投資が圧迫されることになる。ファイナンス理論でも投資が成長に直結し企業価値を押し上げると証明できる。あなたは短期的な還元が欲しくて、長期的な企業価値はどうでもよいのか」
と返すくらいの財務戦略があれば、見る目のある投資家は評価するはずです。
結局、企業の価値を決めるのは業績です。
それ以外の外見をどう変えようが、大した影響は与えません。
ファイナンスなどという経営の”余事”に振り回されることなく、そろそろ商売を再開する時ではないか、と私は感じています。
利益を上げればすべては解決するのです。
本書 P5
第1章 ファイナンスは企業価値を創造しない―キャッシュを生まないものには価値はない
第2章 実務経験から学んだ理論と現実のギャップ―ファイナンス理論は鵜呑みにしてはならない
第3章 短期主義で企業価値を破壊する上場企業―こういう誤解をしていませんか?
第4章 上場企業が実践すべきファイナンスの10のポイント―すべきこと、やめるべきこと
第5章 かつての日本企業こそがめざすべきベンチマークである―番頭と長期的経営の復活がカギ
第6章 IPOをめざすベンチャー経営者へ―小さく始めて大きく育てよう
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