「交渉術」佐藤優の感想

佐藤氏はロシア担当の元外交官で、北方領土問題で鈴木宗男氏とともにロシアと熾烈な交渉に当たった人物だ。
退官後は作家業に転身し、自身が担当した仕事や外務省の内幕について赤裸々に暴き、今も幅広いジャンルで精力的に執筆活動にあたっている。

本作は特に対ロシアとの北方領土問題とその周辺的な出来事について、「交渉術」という観点から実体験とそれに対する分析を語ったものだ。
官僚と政治の世界の内実や、複雑な人間模様が実に仔細に描かれている。

外交の緊迫感、人間の欲への弱さ、各国の主要プレイヤーの優れた深謀遠慮、政治家の胆力。

どれも興味深く描かれていて、まったく体験したことのない出来事なのに、まるで自分がその場にいるかのように読み手を導いてくれる。そのうえで、人間心理に精通した佐藤氏ならではの「解説」が添えられていてより一層理解が進むという作りだ。

他者の目を気にすることなく、自分で自分に満足できるということは幸せなことだ。
佐藤氏はそう思い、俗な欲を持つことなく国益のためと思い、身を粉にして仕事に尽くした。

その結果、順調に階段を上りすぎ力を持ちすぎた。
かえって周囲にとっては脅威になり、敵をつくって(勝手に敵が現れて)逆風が吹き逮捕されるに至った。

到底理不尽な起訴理由(これについては世間的には賛否が割れるところかもしれないが)であり、国に奉公していると思っていた佐藤氏は反対派によって国賊扱いされて、まさに青天の霹靂だった。
納得できない理不尽な出来事に直面して、佐藤氏は自暴自棄にはならなかった。

佐藤氏は徹底的に自己分析をする。
過去の子細な仕事の事実関係から、自分の思想、思考の癖、欲求について客観的に分析し、人間関係を整理し、そして膨大な読書をした。

そして至った一つの教訓は、佐藤氏は、自己充足するあまり、客観的に自分を見すぎなかったことを反省しているという。
つまり、満たされている人は人を妬まないが、それは人からの妬みにも疎いということを意味する。
これに気が付かず、佐藤氏の場合は逮捕されるという不幸にまで至った。

終盤で、ゲンナというロシアの知人から言われたという二つの教訓が示唆に富む。

過去の歴史をよく勉強しろ。
現在、起きていること、また、近未来に起きることは、必ず過去によく似た歴史のひな形がある。
それを押さえておけば、情勢分析を誤ることはない。

人間研究を怠るな。
その人間の心理をよく観察せよ。
特に、嫉妬、私怨についての調査を怠るな。

宰相ビスマルクの格言は、こうだ。

賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ

しかし佐藤流に言うときっとこうなる。

賢者は歴史にも経験にも学び、その教訓をもって人を触発する

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