情報の非対称性「市場の失敗」実例は逆選択とモラルハザード

経営学

情報の非対称性を投資家が初心者にもやさしく解説します。

経済学でも投資でもビジネスでも、情報の非対称性はとても重要なワードです。

情報の非対称性があるからこそ、取引が難しくなり市場の失敗の原因になります。
市場の失敗の例には逆選択モラルハザードがあります。
どちらも大切なので、わかりやすく解説します。

補足
「情報の不完全性」には、情報の非対称性と、将来の不確実性がありますが、その前者です。

情報の不完全性4つ

情報の非対称性とは

まずは情報の非対称性とは何かを見ていきましょう。

情報の非対称性の意味

情報の非対称性とは、「取引の買い手と売り手では、持っている情報の質も量も異なる」ということです。

一般に売り手は商品についての情報を多く持っているはずでしょうし、買い手は比較的詳しくありません。
劣悪な商品なのに都合の良い言葉を並べ立て、買い手を騙す行為は詐欺の典型です。

有名なのが中古車市場で、買い手は中古車の状態や品質などよくわからずに買った後、すぐに壊れてしまい辛酸をなめさせられるということで、レモン市場などと呼ばれます。

自動車

逆の例もあります。

たとえば「買い手が学生だと偽って学生割引で映画館に入場する」などでしょう。
どちらの例も情報がどちらかに偏っているから起こることです。

このように、情報が不十分であることが、借り手にも貸し手にも疑いを生み金融取引をためらわせ、「市場の失敗」に終わる可能性があります。

情報の非対称性と市場の失敗

情報の非対称性が引き起こす市場の失敗は2つあります。

  • 逆選択
  • モラルハザード

市場とは、本来買い手も売り手も自分の要求をほどよい条件でかなえてくれる、取引のマッチングの場です。
アダム・スミスの言うように市場は参加者どちらにとっても便益をもたらしてくれるものです。

しかし、この「情報の非対称性」があることによって、参加者は取引をやめてしまったり、取引した後で「こんなはずじゃなかった」と後悔するのです。

これが市場の失敗です。

情報の非対称性と逆選択とは

逆選択とは、
「売り手が優良な借り手だけと取引しようと、返済のリスクが高い買い手を避けようとする結果、本来望んでいない、高リスクの買い手ばかりが取引に応じることになってしまう」
という皮肉な現象です。

逆選択の具体例

逆選択を、売買の取引ではなく、銀行の融資を例に取って解説します。

情報の非対称性のうち、重要なポイントは借り手の返済能力がわからないことです。

どのような金融取引であっても、返済能力の見極めが非常に重要な要素です。
情報を調査することを情報生産と言いますが、これはほとんど返済能力を調べるためのものです。

  • 担保になる不動産はあるか
  • 十分な所得を得ているか
  • 浪費癖はないか

もし貸し手が借り手の情報を十分に知ることができれば、適正な金利を与えることができます。

借り手をしっかり分析し、能力に応じた条件をつけることができれば、借り手自身もその条件以上が望めないということはわかっていいるので、取引は成立に近づきます。

このように、借り手の返済能力を正確に知るということは、逆選択を解決することにつながります。

しかしその情報を正確に得るのが難しいために、市場の失敗になります。

もし情報生産ができなければ
相手の情報を知るすべがなければ、とりあえず貸し倒れがあっても良いように、あえて高い金利など厳しい条件を設定します。

すると優良な顧客は自分がもっと低い金利でも貸してくれる貸し手がいることを知っているので、わざわざ悪条件では借りません。
優良顧客はいなくなります。

となるとそれでも借りたいと思うのは、他では絶対に借りられないほど信用度の低い顧客だけになります。

これが逆選択です。

逆選択と投資

投資家は、投資する前にしっかりその企業のことを調べるしかありません。

財務諸表をしっかり読む
小売業なら店舗に足を運んでみる
企業の公表情報はなるべく目を通す

あなたが詳しい業界があれば、その業界については目が利くはずです。
情報の非対称性を減らすことができる可能性が高いです。
よくわからない企業よりは、詳しい企業を検討しましょう。

突出して魅力的な条件は取引前に理由を詰めるべき
あなたも投資をする時、大きすぎる利回りや安すぎる手数料を見ると、何か裏があるのでは、と感じるでしょう。
優良企業は放っておいても自然に投資家が興味を持ちますから見せびらかすようなリターンはなくても構いません。

もしかすると魅力すぎる投資条件は、そうでもしなければ資金を集められないということの裏返しなのかもしれません。
インフレリスクや信用リスクの大きい新興国の預金金利率が高いのも納得です。

逆選択の具体例

市場の失敗のひとつ、逆選択を解説するため具体例としてアース銀行(架空)を見てみましょう。

逆選択と情報生産

貸し手が一番知りたい情報は、借り手に返済能力があるかどうかです。
しかし、それを知るには手間がかかります。

一人一人調査するのはコストがかかりますし、そのうえ正確な情報が得られるかどうかもわかりません。

そこで、調査の前に、ある工夫をします。
それは、貸し出しの条件を厳しくすることです。金利を上げ、返済期間も短くします。

銀行の狙いは、「あえて高いハードルを設けることで返済能力の低い人をはじめから排除すること」です。
リスクの高い人が来なくなるので、調査の手間も減らせるかもしれません。

「懐に余裕のある人ならこのような厳しい条件であっても借りるだろう、一方、返済能力が低い人ならはじめからこのような厳しい条件には応じないだろう」

逆選択の結末

しかし返済能力の高い借り手ならば、貸したい銀行は多いです。
わざわざアース銀行に頼らなくても、他の銀行に行けばもっと有利な条件でお金を借りることができるでしょう。

返済能力の低い借り手は、どこの銀行もお金を貸してくれずせっぱつまっています。
多少厳しい融資条件であっても、後先を考えず飛びつこうとします。

結果として、アース銀行の融資窓口に相談に来るのは、銀行にとってありがたくない返済能力の低い人ばかり、という逆転現象が起こります。

情報の非対称性とモラルハザードとは

モラルハザードとは、「取引の後で借り手が安心してしまい、返済のための努力を怠ること」です。

チェス

これは、返済能力があってもなくても、どちらでも起こります。
情報生産で返済能力が高い、とわかったとしても、いざお金を貸したら急に浪費癖が現れるかもしれないのです。
返済能力ではなく、意思あるいは倫理が問題です。

モラルハザードの簡単な例は、生活費に困って人から借りたお金をギャンブルですってしまうことです。
自動車保険に入って、「事故を起こしても補償してくれるから大丈夫」と安心し、運転が乱暴になることも挙げられます。

補足
少し経済学の用語を使えば、「ある目的をもって対処すると、結果として、目的とは逆のネガティブなことを引き起こすインセンティブを与えてしまう現象」です。
リーマンショックはモラルハザードの教訓
他にも大規模な例として、リーマンショックが挙げられます。

当時は、詐欺まがいの高リスクな金融商品を「自分はリスクを全く負わないから」と無知な投資家たちに巧みなプロモーションで売りまくり、莫大な手数料だけを手にして金融危機を引き起こして素知らぬ顔をしている金融機関が米国で多発しました。

 

リーマンショックを描いた映画はいくつかありますが、特にオリバー・ストーン監督の『THE WALL STREET』(2011年)は傑作です。

 

モラルハザードという言葉は、その意味をばっちり表現する日本語訳がないのですが、この映画では「倫理欠如」と訳しています。
当時、金融の世界ではどのような「倫理欠如」的な行動が横行していたのか、モラルハザードを知る上で非常に面白い映画です。

モラルハザードと情報の非対称性解消

話が逸れましたが、貸し手が借り手の返済能力、返済努力を見極めることは簡単ではありません。
また、借り手が取引後に期待外れの行動をとるリスクもゼロではありません。

借り手は自分のことはわかっているはずですが、取引で自分が不利になることはわざわざ教えないでしょう。

情報の非対称性がある限り、「貸し手は相手が信用できる人なのかどうか」という不安を解消することはできません。
このままだと、取引するリスクを避けようとするため、金融取引は困難で「市場の失敗」になるかもしれません。

これを解消するのが重要な課題です。

モラルハザードの具体例

ミュージシャン志望のフリーター、タク(架空人物)の例を見ましょう。

バンドライブ

低収入生活のミュージシャン
タクはミュージシャンに憧れて大学を卒業してから5年間勤めた会社を辞め、28歳で仲間とバンドを組み音楽活動を始めます。
最初の1年は貯金もあり音楽に打ち込めていたのですが、それも徐々に底を尽きてきます。

 

主な収入は月に5回のライブ活動でのもので、楽器代や会場代やポスター代でほとんど消えてしまいます。
そう簡単に音楽で収入を得ることはできません。
また会社勤めをするという選択肢も頭をよぎりましたが、音楽を諦めきれません。

 

というのは、ファンの女性に囲まれるという心地よさも知ってしまったからです。

将来の返済能力を高めることを条件に金融取引が成立
ある時ついに生活費がなくなり、わらにもすがる思いで以前の会社の友人から月3万円の返済の約束で30万円を借ります。

そのとき、収入がないということは正直に話し、友人は条件として「返済まで必ずアルバイトをして音楽以外の収入を確保するように」と念を押し約束しました。

取引に安心して返済努力を怠る
タクはとりあえずお金を得たことで一安心し、女の子とのデートに打ち込みます。

アルバイトは二の次でした。

「バンドマンを目指す男がバイトなんて女の子に言えないし格好悪い。ファンを増やしてバンドで一発当てて、倍にして返そう」

そう思って、得た収入は音楽や女性との付き合いで散財してしまい、消費者金融と長い付き合いが始まります。

タクは、28歳の健康な男性です。
アルバイトでもなんでも、月に3万円以上の収入を得て友人への返済に当てるのはそれほど難しいことではなかったでしょう。
つまり、返済能力はあったということです。

問題は、当面の生活費を得たことで安心してしまい、返済努力を怠ったということです。
取引をする前に、タクが返済するかどうかをはっきり判断できるかどうか、これは本人でもなければ難しいです。
本人でも、本当は返すつもりだったのに誘惑に負けて返すことを怠ってしまったということもあるでしょう。

情報の非対称性まとめ
  • 情報の非対称性とは、「取引の双方で持っている情報の量も質も違う」状態
  • 情報の非対称性が原因で、逆選択・モラルハザードといった市場の失敗が起こる

お知らせ

kabumado

情報の非対称性と株式投資をテーマに、株式投資・トレードの情報サイト「株の窓口」に記事を寄稿いたしました。

より株式投資向けの内容になっております。
投資に役立てたい方は、ご覧ください。

【株の窓口】「株の失敗にもつながる「情報の非対称性」ってナンダ!? 」https://kabumado.jp/hitaishosei/

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