【実例】情報の非対称性とは?「市場の失敗」を起こす逆選択とモラルハザード

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情報の非対称性とは、市場取引において双方が抱えている情報量や質がアンバランスなこと。取引では情報を持っている方が有利であり、不均衡なままでは片方がリスクを恐れて取引が成立しない「市場の失敗」という状態を引き起こす。市場の失敗の例には、逆選択やモラルハザードなどがある。なお、実例では中古車市場や銀行融資などがある。
こんにちは!
アキです!

アキ

この記事では、情報の非対称性について初心者にもやさしくわかるように解説してもらおうと思います。
伺うのは、経済学者の中村教授です。
よろしくお願いします!

アキ

中村教授

中村です。
経済学でも投資でもビジネスでも、情報の非対称性はとても重要なワードです。

中村教授

報の非対称性があるからこそ、取引が難しくなり市場の失敗の原因になります。
市場の失敗の例には逆選択モラルハザードがあります。
どちらも大切なので、わかりやすく解説します。
補足
「情報の不完全性」には、情報の非対称性と、将来の不確実性がありますが、その前者です。

情報の不完全性4つ

情報の非対称性とは

中村教授

まずは情報の非対称性とは何かを見ていきましょう。
はい、よろしくお願いします。

アキ

情報の非対称性の意味

中村教授

情報の非対称性とは、「取引の買い手と売り手では、持っている情報の質も量も異なる」ということです。
取引の場面で使われるんですね。

アキ

中村教授

そうです。
売買や投資、融資、お金を介さない野球の試合なども一種の取引と考えると、あらゆる場面で使います。

中村教授

一般に売り手は商品についての情報を多く持っているはずでしょうし、買い手は比較的詳しくありません。
劣悪な商品なのに都合の良い言葉を並べ立て、買い手を騙す行為は詐欺の典型です。



身近な例では何かありますか?

アキ



中村教授

有名なのが中古車市場で、買い手は中古車の状態や品質などよくわからずに買った後、すぐに壊れてしまい辛酸をなめさせられるということで、レモン市場などと呼ばれます。
これはわかる気がします……!

アキ

自動車

中村教授

逆の例もあります。
たとえば「買い手が学生だと偽って学生割引で映画館に入場する」などでしょう。
どちらの例も情報がどちらかに偏っているから起こることです。
「情報の量も質も異なる」から起こるんですね。

アキ

中村教授

そうです。
このように、情報が不十分であることが、借り手にも貸し手にも疑いを生み金融取引をためらわせ、「市場の失敗」に終わる可能性があります。
「市場の失敗」……
では次はそれを教えてください。

アキ

情報の非対称性と市場の失敗

中村教授

「市場の失敗」とは、聞きなれない用語かもしれませんが、難しいことではありません。
はい。

アキ

中村教授

「条件さえよければ成立していたかもしれない取引が成り立たなくなってしまったこと」
「不十分な情報で取引してしまったために、取引後に思わぬ不具合が生じること」
と言えます。

中村教授

情報の非対称性が引き起こす市場の失敗は2つあります。
  • 逆選択
  • モラルハザード

中村教授

市場とは、本来買い手も売り手も自分の要求をほどよい条件でかなえてくれる、取引のマッチングの場です。
アダム・スミスの言うように市場は参加者どちらにとっても便益をもたらしてくれるものです。
便益とは、メリットと言うことですか?

アキ

中村教授

そうです。
経済的、精神的なメリットも含めて取引の便益と言えます。

中村教授

しかし、この「情報の非対称性」があることによって、参加者は取引をやめてしまったり、取引した後で「こんなはずじゃなかった」と後悔するのです。
それが市場の失敗……

アキ

では市場の失敗の、一つ目、逆選択についてお願いします。

アキ

情報の非対称性と逆選択とは

中村教授

逆選択とは、
売り手が優良な借り手だけと取引しようと、返済のリスクが高い買い手を避けようとする結果、本来望んでいない、高リスクの買い手ばかりが取引に応じることになってしまう
という皮肉な現象です。

逆選択の具体例

逆選択を、売買の取引ではなく、銀行の融資を例に取って解説します。

中村教授

情報の非対称性のうち、重要なポイントは借り手の返済能力がわからないことです。

どのような金融取引であっても、返済能力の見極めが非常に重要な要素です。
情報を調査することを情報生産と言いますが、これはほとんど返済能力を調べるためのものです。

調査は、情報の非対称性を埋めるためのものなんですね。

アキ

  • 担保になる不動産はあるか
  • 十分な所得を得ているか
  • 浪費癖はないか

もし貸し手が借り手の情報を十分に知ることができれば、適正な金利を与えることができます。

借り手をしっかり分析し、能力に応じた条件をつけることができれば、借り手自身もその条件以上が望めないということはわかっていいるので、取引は成立に近づきます。

中村教授

このように、借り手の返済能力を正確に知るということは、逆選択を解決することにつながります。
でも、結局相手のことを全てわかるのは不可能……

アキ

中村教授

その通り。
情報を正確に得るのが難しいために、市場の失敗になります。

中村教授

銀行は担保がなければ貸さないのも、情報の非対称性を解決するのが難しいと言うことの表れです。
もし情報生産ができなければ
相手の情報を知るすべがなければ、とりあえず貸し倒れがあっても良いように、あえて高い金利など厳しい条件を設定します。

 

すると優良な顧客は自分がもっと低い金利でも貸してくれる貸し手がいることを知っているので、わざわざ悪条件では借りません。
優良顧客はいなくなります。

 

となるとそれでも借りたいと思うのは、他では絶対に借りられないほど信用度の低い顧客だけになります。

中村教授

これが逆選択です。

逆選択と投資

中村教授

ここで投資についても同じことが言えます。
アキさんは投資を始めたんでしたね?
そうです!
でもやっぱり銘柄を見ても、本当に業績が良いのかよくわからなくて……

アキ

中村教授

投資家は、投資する前にしっかりその企業のことを調べるしかありません。
  • 財務諸表をしっかり読む
  • 小売業なら店舗に足を運んでみる
  • 企業の公表情報はなるべく目を通す

中村教授

あなたが詳しい業界があれば、その業界については目が利くはずです。
情報の非対称性を減らすことができる可能性が高いです。
まず始めのうちは、よくわからない銘柄よりは少しでも情報を持っている業界の銘柄を検討しましょう。
突出して魅力的な条件は取引前に理由を詰めるべき

中村教授

あなたも投資をする時、大きすぎる利回りや安すぎる手数料を見ると、何か裏があるのでは、と感じるでしょう。
優良企業は放っておいても自然に投資家が興味を持ちますから見せびらかすようなリターンはなくても構いません。

もしかすると魅力すぎる投資条件は、そうでもしなければ資金を集められないということの裏返しなのかもしれません。
インフレリスクや信用リスクの大きい新興国の預金金利率が高いのも納得です。

中村教授、逆選択の意味はなんとなくわかったんですが、具体的な例はありますか?

アキ

逆選択の具体例

中村教授

市場の失敗のひとつ、逆選択を解説するため具体例としてアース銀行(架空)を見てみましょう。

逆選択と情報生産

中村教授

貸し手が一番知りたい情報は、借り手に返済能力があるかどうかです。
しかし、それを知るには手間がかかります。

一人一人調査するのはコストがかかりますし、そのうえ正確な情報が得られるかどうかもわかりません。

そこで、調査の前に、ある工夫をします。
それは、貸し出しの条件を厳しくすることです。金利を上げ、返済期間も短くします。

銀行の狙いは、「あえて高いハードルを設けることで返済能力の低い人をはじめから排除すること」です。
リスクの高い人が来なくなるので、調査の手間も減らせるかもしれません。

「懐に余裕のある人ならこのような厳しい条件であっても借りるだろう、一方、返済能力が低い人ならはじめからこのような厳しい条件には応じないだろう」

逆選択の結末

中村教授

しかし返済能力の高い借り手ならば、貸したい銀行は多いです。
わざわざアース銀行に頼らなくても、他の銀行に行けばもっと有利な条件でお金を借りることができるでしょう。

返済能力の低い借り手は、どこの銀行もお金を貸してくれず切羽詰まっています。
多少厳しい融資条件であっても、後先を考えず飛びつこうとします。

中村教授

結果として、アース銀行の融資窓口に相談に来るのは、銀行にとってありがたくない返済能力の低い人ばかり、という逆転現象が起こります。
こんなに、情報の非対称性は皮肉な結果を招くんですね。

アキ

中村教授

完全な解決は難しいです。
だからこそ、調査会社や分析会社が生計を立てられると言う面もありますが。
では次に、市場の失敗のふたつ目、モラルハザードについて教えてください。

アキ

情報の非対称性とモラルハザードとは

中村教授

モラルハザードとは、「取引の後で借り手が安心してしまい、返済のための努力を怠ること」です。
と言うことは、情報の非対称性を埋めることができたとしても、モラルハザードは起こることがある、と言うことですか?

アキ

チェス

中村教授

そうです。
これは、返済能力があってもなくても、どちらでも起こります。
情報生産で返済能力が高い、とわかったとしても、いざお金を貸したら急に浪費癖が現れるかもしれないのです。
返済能力ではなく、意思あるいは倫理が問題です。
なるほど。
では具体的な例はありますか?

アキ

中村教授

モラルハザードの簡単な例は、生活費に困って人から借りたお金をギャンブルですってしまうことです。
自動車保険に入って、「事故を起こしても補償してくれるから大丈夫」と安心し、運転が乱暴になることも挙げられます。
補足
少し経済学の用語を使えば、「ある目的をもって対処すると、結果として、目的とは逆のネガティブなことを引き起こすインセンティブを与えてしまう現象」です。
リーマンショックはモラルハザードの教訓

中村教授

他にも大規模な例として、リーマンショックが挙げられます。

当時は、詐欺まがいの高リスクな金融商品を「自分はリスクを全く負わないから」と無知な投資家たちに巧みなプロモーションで売りまくり、莫大な手数料だけを手にして金融危機を引き起こして素知らぬ顔をしている金融機関が米国で多発しました。

 

中村教授

リーマンショックを描いた映画はいくつかありますが、特にオリバー・ストーン監督の『THE WALL STREET』(2011年)は傑作です。

 

モラルハザードという言葉は、その意味をばっちり表現する日本語訳がないのですが、この映画では「倫理欠如」と訳しています。
当時、金融の世界ではどのような「倫理欠如」的な行動が横行していたのか、モラルハザードを知る上で非常に面白い映画です。

モラルハザードと情報の非対称性解消

中村教授

話が逸れましたが、貸し手が借り手の返済能力、返済努力を見極めることは簡単ではありません。
また、借り手が取引後に期待外れの行動をとるリスクもゼロではありません。
借り手は自分のことはわかっているはずですが、取引で自分が不利になることはわざわざ教えないですもんね。

アキ

中村教授

情報の非対称性がある限り、「貸し手は相手が信用できる人なのかどうか」という不安を解消することはできません。
このままだと、取引するリスクを避けようとするため、金融取引は困難で「市場の失敗」になるかもしれません。

中村教授

これを解消するのが重要な課題です。

モラルハザードの具体例

中村教授

ミュージシャン志望のフリーター、タク(架空人物)の例を見ましょう。
実は私の教え子です。

バンドライブ

低収入生活のミュージシャン

中村教授

タクはミュージシャンに憧れて大学を卒業してから5年間勤めた会社を辞め、28歳で仲間とバンドを組み音楽活動を始めます。
最初の1年は貯金もあり音楽に打ち込めていたのですが、それも徐々に底を尽きてきます。

 

主な収入は月に5回のライブ活動でのもので、楽器代や会場代やポスター代でほとんど消えてしまいます。
そう簡単に音楽で収入を得ることはできません。
また会社勤めをするという選択肢も頭をよぎりましたが、音楽を諦めきれません。

 

というのは、ファンの女性に囲まれるという心地よさも知ってしまったからです。

将来の返済能力を高めることを条件に金融取引が成立

中村教授

ある時ついに生活費がなくなり、わらにもすがる思いで以前の会社の友人から月3万円の返済の約束で30万円を借ります。

そのとき、収入がないということは正直に話し、友人は条件として「返済まで必ずアルバイトをして音楽以外の収入を確保するように」と念を押し約束しました。

取引に安心して返済努力を怠る

中村教授

タクはとりあえずお金を得たことで一安心し、女の子とのデートに打ち込みます。

アルバイトは二の次でした。

「バンドマンを目指す男がバイトなんて女の子に言えないし格好悪い。ファンを増やしてバンドで一発当てて、倍にして返そう」

そう思って、得た収入は音楽や女性との付き合いで散財してしまい、消費者金融と長い付き合いが始まります。

タクは、28歳の健康な男性です。
アルバイトでもなんでも、月に3万円以上の収入を得て友人への返済に当てるのはそれほど難しいことではなかったでしょう。
つまり、返済能力はあったということです。

問題は、当面の生活費を得たことで安心してしまい、返済努力を怠ったということです。

中村教授

取引をする前に、タクが返済するかどうかをはっきり判断できるかどうか、これは本人でもなければ難しいです。
本人でも、本当は返すつもりだったのに誘惑に負けて返すことを怠ってしまったということもあるでしょう。

ここまで中村教授に「情報の非対称性」の意味、そして情報の非対称性によって、市場の失敗が起こってしまうと伺いました。

アキ

ビジネスでも投資でも、この課題を完全に解決するのは難しいと言うことでしたが、
投資初心者の私ができることはありますか?

アキ

中村教授

あります。
まずは、リサーチはできる限りやる、と言うことです。
これが半分です。

中村教授

もうひとつは、リサーチしても限界があることを理解して、「仮に判断が間違っていたとしても安全な取引を行う」と言うことです。

中村教授

わからないものを買ったり投資をするのはギャンブルと変わりません。
しかし、調べつくしてみてわからない事が残るケースでも、将来起こりうるリスクをカバーできるほど有利な条件の取引であれば、これはグッドディールです。
はあー
お金遣いの荒い母に教えてあげたいセリフです……!

アキ

情報の非対称性まとめ
  • 情報の非対称性とは、「取引の双方で持っている情報の量も質も違う」状態
  • 情報の非対称性が原因で、逆選択・モラルハザードといった市場の失敗が起こる

 

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