このページでは、証券会社の役割と存在意義をわかりやすく解説します。
証券会社は直接金融の担い手で、投資家のサポートをする役割です。
投資はリスクがつきものです。
投資は言うまでもなく金融取引で、金融取引にはさまざまな困難があります。
もちろん最終的には投資家の自己責任なのですが、
- 「証券会社が投資のリスクにどう対処しているのか?」
- 「情報をどのように活用すればよい投資ができるのか」
これら金融の仕組みを知れば、投資だけでなくビジネスでも役立ちます。
- 金融取引の仕組みを知りたい方
- 証券会社の仕事を知りたい就活性
- 情報とリスク管理の方法を知りたいビジネスパーソン
目次
証券会社と情報の非対称性
金融取引を難しくさせ、市場の失敗の原因になるものに、「情報の非対称性」があります。
取引の双方で、持っている情報の質も量も不平等な状態
例)中古車のディーラーと客、融資の企業と銀行
証券会社は、この課題を埋め、金融取引をサポートするためにアンダーライティングという活動を行っています。
証券会社ーアンダーライティング
情報の非対称性のの問題は、資金の受け手の返済能力がわからないことです。
直接金融にも株、債券、投資信託など様々な証券がありますが、ここでは一番分かりやすい、投資家と株式の上場を例に考えます。
既存の株式を扱う市場は、既発市場(セカンダリー)と言います。
証券取引所に上場しようとしている会社があり、投資家は投資を検討します。
投資家にとっての関心は、
- 「株式を買って、株価が値上がりするかどうか」
- 「十分な配当を受け取れるかどうか」
つまり「金銭的なメリットがあるかどうか」です。
しかし困ったことに、投資家は銀行のようにいちいち審査などできません。
直接企業に問い合わせたり、出向いて状況を調べるのは非常に手間です。
一方で上場を控えている会社からすれば、自社の株式が魅力的で、資金を出したいと思ってもらわなければ資金調達ができません。
自社の魅力を投資家にアピールする必要があります。
しかし、企業には必ずしもそのような投資家に訴えるノウハウがあるわけではありません。
この両者の悩みを解決するのが証券会社です。
証券会社のマッチング
証券会社のアンダーライティング(引受)とは、上場しようとしている会社に対し、公募株価や株式の上場日や投資家向けの情報開示戦略をアドバイスし、無事に資金調達できるよう全面的にサポートすることです。
上場している会社は例外なく、幹事会社として付きっきりで上場をサポートしてくれる証券会社がついています。
幹事証券会社は投資家に代わって会社のあらゆる情報を審査し、問題ないと判断すれば太鼓判を押し投資家に株式を販売します。
こうすることで「情報の非対称性」を解消し、逆選択を回避して資金の受け手と出し手をマッチングするわけです。
国債や社債などの債券や投資信託などの金融商品も同様に証券会社が情報を調べ、投資家にアナウンス、アドバイスします。
証券会社は単に投資家の注文を取り次ぐだけでなくこうした情報生産の役割を果たすことで、投資家と企業の間でスムーズな金融取引が生まれています。
もし証券会社の審査が誤っていれば投資家が損をするだけでなく証券会社にとっても信用問題になるため、審査は慎重に行います。
これで投資家の逆選択の困難は減らすことができます。
「会社四季報」や「日経会社情報」を見ると、企業ごとに「主幹事会社」の欄があります。
これは上場する時に(プライマリー)、株式を引き受けて顧客に売り配ったり、企業の情報を広報するサポートをする証券会社です。
大きな会社になると、主幹事の証券会社があり、そのほかにも数社の幹事会社でアンダーライティングするケースもあります。
証券会社とモラルハザード
「情報の非対称性」の重要な問題はモラルハザードです。
上の情報の非対称性の例に従えば、上場する会社に出資をしたら、その返済義務がないことをよいことに経営者が多額のお金に目が眩んで浪費して会社経営に精を出さなくなることです。
間接金融の銀行の場合は、融資したのは銀行で、そのお金を返済されなければ銀行が損をするため自身で監視し続ける必要がありました。
しかし、直接金融の場合は株式の価値が上がろうが下がろうが、証券会社に直接損益の影響があるわけではありません。
影響を受けるのはあくまでも本源的証券を持つ投資家です。
ここが銀行との一番の違いです。
証券会社は、注文を取り次いだ後は自分の懐に全く影響がないため、わざわざ企業のその後を真剣に監視する動機がないのです。
つまり、証券会社ではモラルハザードを防げないと思った方が現実的なのです。
情報の非対称性と情報産業・制度インフラ
では、投資家はどのように対処すればよいのでしょうか。
投資家が自ら監視(情報生産)を続けるしかないのでしょうか。
何か投資家が一方的にリスクを負わされ、不利なようにも思えます。
実は、ここに規制とビジネスチャンスがあります。
モラルハザードを防ぐための情報産業
直接金融の参加者を見ると、投資家、証券会社、市場(取引所)があります。
モラルハザードによって直接的にリスクを負うのは投資家だけです。
もしそうであれば、投資家は証券を買うときに相当高いリスクプレミアムを要求するはずです。
「リスクの分だけリターンを増やせ」というわけです。
投資家は常にリスク回避的ですから、場合によっては取引から手を引くかもしれません。
そうなると投資家だけでなく資金の受け手である企業、証券会社、市場まで困ってしまいます。
資本市場の機能不全を意味します。
国としても防がなければなりません。
制度インフラ
そこで、悪質なモラルハザードから投資家を守るために、法律などの制度インフラが整備されています。
たとえば情報開示制度です。
上場企業は自社の都合での情報開示をするわけではなく、必ず制度にのっとって行わなければなりません。
上場企業は決算日から45日以内に有価証券報告書を開示する義務があります。
ほかにも、会計でごまかしていないどうか、監査役あるいは第三者機関(監査法人)による会計監査を受け、太鼓判を押してもらいます。
監査をして白か黒か決めるためには、会計基準が必要です。
もし悪質なごまかしがあった場合は罰則の規定もあります。
東芝とその監査法人である新日本監査法人に数十億円単位の課徴金が課されました。
騙されて損害を受けた東芝の株主たちは集団訴訟をし、損失の穴埋めを求めることもできます。
これらの制度は金融商品取引法によって定められています。
法律や制度があることで、投資家はある程度守られるのです。
情報サービス会社
投資家によっては、制度インフラだけでなく情報を提供してくれてアドバイスを与えてくれる存在が必要です。
プライマリーで買おうか考えている投資家ばかりでなく、セカンダリーで買おうかといる投資家、すでに保有しており企業のその後の経過を監視したい投資家と沢山います。
そのようなニーズを満たすため、投資に関しての情報産業が発展することになります。
たとえば、証券会社による証券調査、格付け会社、市場調査、投資顧問、金融系のメディア、新聞、雑誌、投資セミナーなど、数え上げればきりがありません。
間接金融と違って投資家が直接リスクを負うからこそ、このような産業が発展したのです。
このように、モラルハザードを回避するために、制度インフラと情報産業が存在します。
これらを有効活用して自身で情報活用する必要はありますが、リスクを減らす方法です。
- 情報の非対称性を埋めるために、証券会社はアンダータイティング(引き受け)で投資家に情報開示をする
- 証券会社でカバーできない部分は、格付け会社・信用会社・監査法人などの情報産業と、制度・罰則規定によって投資家のリスクを減らす
証券会社と不確実性
ここからは証券会社が将来の不確実性リスクにどのように対処するのかを解説します。
証券会社の重要な機能はふたつです。
- ブローカー
- ディーリング
証券会社と信用リスク
投資のリスクについてですが、これは証券会社が何か対処をすることはありません。
証券会社は投資家のリスクを防げません。
つまり、投資家が損失を被るリスクについて、証券会社は何も守らないということです。
投資家が本源的証券を保有してリスクに対しての自己責任を持つからです。
投資家自身が企業の過去の業績や市場の動きを見ながら、将来の企業の見通しを判断しなければなりません。
例)株、投資信託、保険など
投資家はそれらの情報や自身の見通しをもとに、将来に対する見通しを立てて、備えをします。
過去のデータをもとに、未来予測をし、それに適切に備えるわけですから、投資は非常に難しい仕事です。
これが多くの投資家が上手くいかない理由です。
逆に言えば、不確実な未来に対してうまく対処することのできる投資家は、圧倒的に有利です。
証券会社とリスク
「流動性」に対して、証券会社はブローカー機能とディーリング機能によって対処します。
投資家からすれば、それがどれだけ魅力的な株式であったとしても、いざというときに売却できないのであれば不安に思うはずです。
そのような時、持っている株を売れないとなれば焦るばかりです。
逆に、ある株を欲しいと思ってもそれが買えないのであれば不満に思うでしょう。
これらは流動性の欠如と言います。
これではせっかくの市場が機能しないので、証券会社の存在意義がありません。
だからこそ、証券会社は流動性創出について、大きな役割を果たしています。
2016年は低金利を背景に30年物や40年物の社債など、満期が超長期の証券が多く発行されました。
本当に満期まで保有し続けなければならないとすればリスクが大きく投資家は尻込みしますが、満期が来る前に売買することができる(流動性がある)ため、投資家は安心して買うことができるのです。
証券流動性のブローカー機能
ブローカー機能とは、投資家どうしの売買を仲介することです。
新発市場(プライマリー)に対して、これはすでに市場に流通している証券のやり取りをすることから、既発市場(セカンダリー)と言います。
株式や国債などの証券は、以前は紙面が中心でした。
その時代では投資家どうしが売買しようと思えば直接面と向かってやり取りしなければなりませんでした(今でもそのような取引は可能ですが)。
それが電話やインターネットの普及によって取引量が膨大になり、紙がそれほど意味を持たなくなったので、ほとんど電子管理になっています。
たとえば築地のような食材市場では、売買したい人の代わりに専門の仲買人が居て売買や事務的、法的手続きをしてくれます。
証券市場でも同様で、「金融商品取扱業者」という、金融庁から認可を受けた専門業者が存在します(野村證券、大和証券など)。
彼らが投資家に代わって専門知識や煩雑な事務処理が必要な市場での取引をブローカーとして行ってくれるからこそ、投資家は快適に売買することをできるのです。
証券会社があることで、投資家は自分の取引に適した相手とマッチングでき、取引がスムーズになります。
つまり、流動性が保たれるわけです。
今の時代も投資家どうしが面と向かって売買の交渉をする取引はあります。
それは相対(あいたい)取引と呼ばれます。
しかしほとんどは「市場」と呼ばれる場所での取引です。
日本には東京、大阪、名古屋などがあり、取引時間中のみ取引可能です。
そのような市場で取引する際、証券会社が代理を務め、投資家本人は原則できないことになっています。
店頭取引
店頭取引(OTC:Over the Counter)というものがあります。
これは同じ証券会社を利用している投資家どうしで売買を行うものです。
規模の大きな証券会社であれば顧客の数は何万人、何十万人に上ります。
証券取引所を介して取引をすれば、当然のことながら取引所に手数料を支払わなければなりません。
であれば、顧客どうしをマッチングさせてしまえばいいわけです。
店頭取引は別名オーバー・ザ・カウンターと呼ばれます。
市場で取引しないまでもカウンターを越えた取引だというわけですね。
証券会社のディーリング機能
ディーリング機能とは、証券会社が自らのお金(自己勘定)で取引をすることです。
これは自腹を切るわけですから、利益も損失もすべて証券会社の自己責任です。
会社の四季報などを見ると、大株主欄に証券会社の名前が載っているのを見たことはないでしょうか?
あれは証券会社がブローカーとして顧客の売買を取り次ぐだけでなく、自らのための取引をしているということです。
これにはもちろん利益追求の目的もありますが、同時に流動性を確保する役割も担っています。
ただし、もともと取引の多い銘柄であれば、わざわざ証券会社が流動性を生み出す必要はありません。
本当に流動性が必要なのは、普段あまり取引されないような銘柄です。
このような銘柄を保有している投資家は、「1年以上前についた値で今も売買できるのか?」「売りたい時に売れるだろうか?」と流動性に不安を感じます。
そこで、証券会社は年に一度、企業価値を測り時価を定めるのです。
その証券会社とは、上場した時にメインでサポートをした幹事証券会社です。
このような役割があることで、まったく取引のない銘柄でも投資家は保有することができるのです。
証券会社の役割まとめ
このように、証券会社は投資家の損失に対するリスク負担はしませんが、流動性については万全の体制を敷いています。
これは証券会社にとってメインの収益源が取引手数料であることから、ある意味自然です。
また同時に、投資家のリスクをなるべく抑えて安心して取引をしてほしいために証券会社などが情報生産をして、将来予測を投資家に情報を提供します。
しかし気を付けなければならないのは、どこまで行っても投資は投資家の自己責任であり、最終的には自分で考えるしかないということです。
そのため、投資家保護の制度と、格付け・信用調査会社などの情報産業が発展することになりました。
投資でもビジネスでも、結局は
- 情報の非対称性を埋める情報力
- 不確実性に対処するリスク管理力
が必要です。
- 証券会社は投資家が情報の非対称性と不確実性に対処するサポートの役割
- アンダーライディングで情報の非対称性を解消する
- ブローカー機能とディーリング機能で流動性を確保し不確実性を解消する
- 最終的に、直接金融は投資家の自己責任
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