DCF法のわかりやすい割引計算と企業価値・株価

タブレットとデータ

ファイナンス理論を使って、わかりやすくDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法、DCF)割引現在価値、そしてリスクプレミアムを解説します。

DCF法は代表的な計算方法です。
どの証券会社や投資銀行も使って言う一般的な方法で、これを知っておけば間違いないと思います。
株式投資や事業投資、M&Aで、現実的で厳密な企業価値を計算したい方には役立つ方法です。

マッキンゼーが詳細を記した本を出しています。
企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践 マッキンゼー・アンド・カンパニー

ファイナンス理論を学ぶ方はこのDCF法が難しくつまずいてしまう方が少なくありません。

しかしポイントを抑えれば決して難しいものではありません。

  • わかりやすいDCF法計算
  • DCF法の金利とリスクプレミアムでの割引率設定
  • DCFと企業価値評価

DCF法とは

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは、企業価値・事業価値や債券の価値を、将来のキャッシュフローを軸に計算する方法です。

DCF法の利点は、将来のキャッシュフローを現在価値に割引いた(ディスカウントした)合計を求める点です。

単純に将来のキャッシュフローの合計を足して理論株価を求めるのではありません。

補足
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く(ディスカウントする)と言ってもはじめての方は難しいと思いますが、順番に解説するので安心してください。

将来のキャッシュフローを軸に企業価値の計算に役立ちます。

ふつう、企業(株式)や債券の価値評価といえば、

  • 1 保有してしている資産の価値
  • 2 将来のキャッシュフロー

この2つが重要です。

株式なら清算価値と配当金、債券なら元本と確定利子です。

しかし、実はこれだけではまだ不十分です。

というのも時間とリスクを加味していないからです。

金融取引は現在から未来にわたっての取引ですが、このために主に2つのリスクがあります。

「今と将来のお金の価値は違うかもしれない」
「将来のことは誰にも分らない」

株式投資で企業価値を測るときも、この2つの時間とリスクを数値化して理論株価に加味できれば、より厳密な企業価値がわかります。

そこでDCF法とは、株式や債券の理論価格を計算する時に、時間とリスクも加味した現実的な計算方法です。

割引現在価値(ディスカウント)とは

では割引(ディスカウント)の考え方を解説します。

必要な要素は、

  • 金利
  • リスク

です。

金利

将来のキャッシュフローは「いつ貰えるのか」も大事です。

「今貰えるお金と、将来貰えるお金では、同じ額でも価値が違う」

今貰える100万円と、1年後に貰える100万円は同じではありません。
車や住宅のローンを利用する時を考えてみればわかります。
多少金利を支払ってでも、今すぐにもらえる方が嬉しいことがあるはずです。

たとえ現在貰える価額と将来貰える価額が同じでも、早くもらえる分が嬉しいということは、「早く貰えることに価値がある」ということです。
その価値を金額で示したものが利子です。

もし市場で1年の利子が5%なら、今貰える100万円にたいして、つり合う1年後の貰えるお金は、100万円×105%=105万円です。
逆に言うと、将来の100万円と釣り合うような、現在貰える額は、100万円/105%≒95.2万円です。

「1年後の100万円の割引現在価値は95.2万円」とも言います。

これを、現在価値に割引く(ディスカウントする)と言います。

リスク

将来のキャッシュフローは、どれほど正確に予測しようとしても、本当に予想通りに行くとは限りません。
株式なら企業の業績に左右されます。
債券なら、信用リスクがあります。

そこで、投資案件の信用度に応じて、適切なリスクを設定する必要があります。

もし変動が大きくリスクの高い企業なら、そのリスク分を上乗せ(リスクプレミアム)を支払う必要があります。

DCF法 ここまでのポイント
  • DCF法とは、将来のキャッシュフローから理論価値を計算する方法
  • キャッシュフローは将来貰うため、時間とリスクの価値を現在価値に割引く
  • 割引計算は、金利とリスクプレミアムを使う

では「DCF法は将来のキャッシュフローを現在価値に割引く(ディスカウントする)」とわかったところで、次の問題は、「どのくらい割り引けばよいのか」です。

DCF法と金利ディスカウント計算

DCF法は、金利とリスクで将来のキャッシュフローを現在価値に割引く方法ですが、まずは金利を使ってディスカウントするプロセスを見てみましょう。

coin

DCF法の割引率の設定

金利は異時点間の価値の違いを表します。

運用して増えることを考えれば、将来の100万円よりも今の100万円の方が明らかに価値が高いのです。

たとえば銀行預金の金利や、安全とされる10年物国債の利回りなどです。
またその企業のリスク(ボラティリティ)に応じて、最低でもそれを加味した分以上は割り引いて考えます。

金利で割引計算をしてみる

たとえば初年度に500万円投資すれば、翌年度から5年間、毎年100万円のキャッシュを生み出す投資案件について考えましょう。
割引率を5%とします。
まずは下の表を見てください。
dcf法 計算

年度FY(Fiscal Year)と、その時点での収入CF(Cash Flow)はいいでしょう。

PVとは、現在価値(Present Value)のことです。

将来の100万円のCFは、「今現在の価値に置き換えれば何円に相当するのか」を示します。
それは割引率によって割り戻すことで計算できます。
やり方を見てみましょう。

$$1年後の100万円の現在価値=\frac{100万円}{(1+5%)^1}$$

=95,2万円

$$2年後の100万円の現在価値=\frac{100万円}{(1+5%)^2}$$

=90,7万円

・・・

$$5年後の100万円の現在価値=\frac{100万円}{(1+5%)^5}$$

=78,4万円

割引という概念を無視すれば、投資額が500万円で、将来の5年間の収入が500万円で収支はゼロです。
しかし、将来のキャッシュと現在のキャッシュは、現在のキャッシュのほうに価値があります。

そこで将来のキャッシュを現在価値に直すため、それぞれ毎年のキャッシュを年度分割引きます。
1年後の100万円よりも2年後の100万円の方が価値は低く、2年後の100万円よりも3年後の100万円の方が価値は低い……と続いていて、5年後の100万円は現在価値に割り引くと78万円分の価値しかないということまでわかります。

株式は満期がなく、企業が永久にキャッシュを生み続けることが前提ですが、あまりにも先のキャッシュについては、現在の価値に割り戻すと実は非常に微々たる価値しかないということもあります。

たとえば50年後に貰える200万円か、今すぐ貰える100万円なら、たいていは後者を選ぶでしょう。

割引率を3%%と低めにしても、50年後の200万円は現在価値で約46万円、今から100万円を年率3%複利で運用すれば、50年後には438万円です。

DCF法とNPV(正味現在価値)

ネット・プレゼント・バリュー(NPV Net Present Value|正味現在価値)とは、将来のキャッシュフローの総額を現在価値に割戻した総額から、投資額を差し引いたものです。

「将来の収入や投資額をひっくるめた、正味(ネット)の投資の価値」がわかります。

もしネットプレゼントバリュー(NPV)がゼロなら投資による収支はゼロ、プラスなら投資すれば利潤が出る、マイナスなら損失です。

株式投資や事業投資を考えるとき、その投資が生み出す本質的な価値と、投資コストを比較します。
ネットプレゼントバリュー(NPV)は、表面的な額の収支だけではなくて時間も加味した本質的な価値を評価できるのです。

NPV=将来のキャッシュフローCFの総額の現在価値―投資コスト

このように考えれば、この投資案件は決して収支ゼロではありません。
ネットプレゼントバリュー(NPV)を計算してみましょう。

将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻すと収支はマイナスになります。
これが企業だとすると、株価が500万円で企業価値は436.9万円であるので割高です。

NPV=(1年目の収入の現在価値)+(2年目の収入の現在価値)+・・・+(5年目の収入の現在価値)ー500

=(95.2+90.7+86.4+82.3+78.4)ー500

=ー67.1

DCF法とリスクプレミアムの計算

つづいて、DCF法の金利とリスクのうち、リスクプレミアム分をディスカウントする計算プロセスです。

リスクとは価格変動

投資のリターンとは、企業の生み出すキャッシュフロー(現金)です。

ですから、まっとうに考えれば株式投資や事業投資のリスクとは企業が思うような業績を残せず、利益を生み出せないことがリスクになるはずです。
それは普通の感覚として、また企業価値評価の王道として間違いではありません。

しかし、ほかにも多くのリスクがあります。

  • 流動性リスク(売りたいときに売れるかどうか)
  • 元本割れリスク
  • 破産リスク
  • インフレリスク(価値が損なわれる)
  • 価格変動リスク
などなど……

多くの種類のリスクがありますが、ファイナンス理論で企業価値を計算する時、リスクとは、「価格変動リスク(ボラティリティ)」です。

リスクとはボラティリティ(価格変動)

実際、株式投資を考えるほとんどの方が株価の上下に主な関心があるのではないでしょうか。

その業績に関わらず、株価が頻繁に上下する銘柄は高いリスク、安定した値動きの銘柄が低リスクです。

こう考えられている理由はボラティリティが高いほど株価が値下がりする可能性も高いからでしょう。
もし株価が頻繁に値動きするなら、当然他の安定している銘柄に比べて値下がりする可能性も高いわけです。
常に株価が上昇方向に動いてくれるならよいのですが、上がり一辺倒などあり得ませんから。

リスクと任天堂
たとえば、任天堂は2016年6月まで株価は比較的安定した値動きでした。

しかし7月に世界各国で「ポケモンGO」を配信し、その人気ぶりに火が付き業績に期待が集まり、一気に投資家の資金が流入、取引が急激に増えました。

株価の値動きを見ても一目瞭然です。

ファイナンス理論の観点からは6月までを比較的にリスクが低い、7月以降を比較的にリスクが高いといいます。

任天堂株価

投資家のリスク回避的姿勢がリスクプレミアムを要求する
投資家は、リスク回避的です。
回避的というのは、「必ずしもリスクの低いものを好む」ということではなく、「リスクの度合いに応じたリターンを要求する」ということです。

「リスクがあるところに投資しているのだから、相応のリターンをよこせ」というわけです。
これがリスクプレミアムです。

1年間の値動きの平均値が100円の銘柄が2つあった時、値動きの小さい方は「99円辺りで買っても良い」と思う投資家が多く、値動きの激しい方は「95円くらいでなければ買いたくないと思う投資家が多い」というようなことがあり得ます。

これも先ほどの時間に関する割引率計算と同様、企業の生み出すキャッシュから、リスク分を割引くのです。
95円の銘柄は、99円のに比べてリスク分を多くを割り引かれてしまいました。

企業からしてみればこの余分に支払った(投資家から受け取るはずものを受け取れなかったのだから支払ったと同じ)4円がリスクプレミアムです。

投資家にとってみれば、この多めに4円要求することがリスクに対する備え(ヘッジ)になります。

つまりこれに従うと、任天堂の例では、2016年7月以降はボラティリティの上昇に応じて、リスクプレミアムも多く支払わなければなららないということです。

このように、企業の生み出す膨大なキャッシュに対して、それを額面通り価値だと考えるのでなく、時間とリスクに応じて現実的なレベルまで落とし込むのが割引現在価値です。

リスクプレミアムで割引計算する方法

金利の割引計算と同じように、リスクプレミアムも割引率の設定ができます。

リスクプレミアムは株価変動率を示すβ(ベータ)を使います。
見慣れない用語ですが、中身は簡単です。

ベータとは、市場平均の株価の変動に対して、個別企業の株価がどれだけブレがあるかという指標です。
日経平均と全く同じように動く企業は「ベータが1」、ソフトバンクや任天堂のように日経平均よりも値動きが激しいなら「ベータは1より高い」、NTTのように緩やかなら「ベータは1より低い」と言います。

リスクは価格変動のことですから、このベータに応じて、リスクプレミアムを計算します。

ベータが高いほど、リスクプレミアムは高くなり、割引率も高くなります。
割引率が高ければ将来のキャッシュフローの現在価値が下がってしまうので理論株価も下がります。
補足
ファイナンス理論を使えばβ(ベータ)の計算方法も解説できますが、このページでは省略します。

DCF法まとめ

ここまで、DCF法で「将来のキャッシュフローを計算することに加えて、時間とリスクの点から現在価値に割り引くことで、企業や債券の理論価格を分析する方法」を見てきました。

DCF法のメリット

割引の凄さとは、本来比べることのできない今と将来のお金を、あたかも同時期のものであるかのように比較できる点にあります。

金融取引の最大の特徴とは、時間とリスクを伴う点にあります。

時間については、それを数値化し将来のキャッシュを適正に現在価値に落とし込むと、より株価が現実的になります。

企業が将来永遠にキャッシュを生み続けるからと言って企業の潜在価値が無限大になるわけではありません。

キャッシュの額を一定とすれば、物価上昇や経済成長が早く、割引率が大きければ株価は下がります。(現金の価値が減ってゆくため)
景気が悪く、割引率が下がれば株価は上がります。(現金の価値が相対的に高くなるため)

このような現実的な考えを織り込み、しかもキャッシュをベースに理論株価を計算する良いアプローチがDCF法です。

DCF法のデメリット

注意しなければならないのは、割引率を求める決まった方法はあっても、投資家によってその数値はバラバラだということです。人によって何が最も安全な利回りだとみなすかは異なります。

また企業のリスクプレミアムがどれくらいが適正かについても、意見が分かれます。CAPMやWACCを使う時もあります。
割引率をどうやって決めるかは、投資家個人のセンスが問われます。

投資家が設定する割引率
たとえば今の10万円と、30年後の100万円はどちらが良いでしょうか?

もし3%複利で運用すれば30年後には24万円になりますが、10%なら174万円になります。

低金利時代で運用が難しいなら30年後の100万円を取るでしょうが、もしビルゲイツや孫正義が投資するのであれば彼らは少ない元手からでもお金を大幅に殖やすことができるので、30年後の100万円は安すぎます。

つまり、「30年後の100万円では、現在の10万円の対価として低すぎる、割に合わない」のです。

このように、割引率を決める要素は人によって見方が違うため、普遍的な割引率は存在しません。

2016年、日本のGDP成長率は実質で1%付近に着地しそうです。
であれば、投資して1%程度の利回りはまあ得られるだろうということで、割引率は最低でも1%程度が妥当と考えられます。

これは時代や国によって全く異なるので、あなたなりの考え方を持つ必要があります。

投資家とDCF法

あなたが投資家で、企業価値評価を勉強したいのなら、ファイナンス理論にまで踏み込んだ考えを完璧に理解する必要はあまりないかもしれません。
むしろ財務諸表分析に労力を注ぐべきでしょう。

投資は、株でも事業でも将来の利益の評価が命です。
しかし、投資である以上、投資の利回りやリスクなどを数字で測るとより具体的な運用の話ができます。

初心者の方は、「どこかで参考になるかもしれない」と気に留めておく程度で、まずは利益を重視するの企業価値評価を理解してから、次のステップとしてこのような考えを応用できると良いと思います。

シンプル!DCF法での理論株価の計算式

役に立つ、すぐに使えるDCF法で理論株価を示すシンプルな式を紹介します。

時間とリスクを気にしなければ、企業価値はこのような式になります。

企業価値=株価=現在の資産+将来の利益

ファイナンス理論を使い、時間とリスクを考慮に入れて、「割引」と「株価変動のリスク(ボラティリティ)」の考え方を加えれば、こうなります。

企業価値=株価=現在の資産+将来の利益-将来の利益の割引分(金利)-リスクプレミアム
EV=P=a+c―i―r
(Enterprise Value=Price=Asset+Cash Flow―interest rate―risk premium)

DCF法で考えれば、株価が上がるための条件は、「現在のお金の価値が高くなり(金利が低くなる)、リスクが少なく(株価が安定)リスクプレミアムも下がる」です。
株価が下がる条件は、「金利が高くなり、その企業のボラティリティが上がること」です。

全く同じキャッシュフローならば、金利が低く、信用リスクが低い日本株は、理論株価は高いです。
金利と信用リスクの高い中国では、株価はそれほど高くなりません。

DCF法のまとめ
DCF法とは、将来のキャッシュフローを現在価値に割引く理論価格の計算方法
割引は、金利とリスクプレミアムを使う
キャッシュフローも金利もリスクも万能ではないので参考程度に使う

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