グーグルの株価はなぜ高いのか? 企業価値を高めるビジネスモデル

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このページでは、バリュードライバー(企業価値を向上させる要素)について、「投資と成長」の点から解説します。

企業価値を最大化させるために最も重要なのは、企業に残るキャッシュを増やすことです。
成長も、売上高だけが成長していて利益が落ちては意味がありません。

また、目先の利益を追い求めて長期的な利益が疎かになってもいけません。

ではどのような経営が企業価値を高めるのか、ファイナンス理論で計算も添えて、わかりやすく解説します。

企業価値向上と成長

成長には投資が必要です。
企業価値と投資・成長の関係を計算で証明します。

良い企業の条件として「追加的な投資があまり必要でない固定費の低いビジネスで、売上規模を拡大するためのコストも比較的かからず、おまけに規模の経済を発揮できる企業」があります。

補足
企業価値が高まっていく企業の条件はのちほど詳しく解説します。

しかしもちろん、企業の成長には投資が必要です。
そこで、リターンの成長がどのようにもたらされるのか、数字を使って解説します。

企業の成長率の計算式

成長率(g)=純投資率×新規投資に対するリターン率

純投資率は、その年に自由に使うことのできる純利益額のうち、何%を新規投資に回すのかということです。

成長のためには、何か投資をしなければなりません。
既存の事業を今までよりも規模を大きくする、あるいは何か新しい事業を始めるということです。

成長志向で多くを投資に回せば短期的には企業と株主の取り分は減ります。
成長は求めないなら、投資をしない分のキャッシュを内部留保や株主還元に回すことができます。

新規投資に対するリターン率は、その名の通り、「新たに投資をしたらリターンは投資額の何%になるか」です。
もしリターン率がなら10%、100万円投資すれば10万円のリターンがあるということです。

この式からわかるように、成長を保つには、「ある程度のリターン率と、絶え間ない投資が必須」です。

大企業と中小企業の成長

大きな企業や配当性向の高い企業は、投資額に対してリターン率が下がっていきます。
同じ10%でも、株主資本1000億円の企業が100億円リターンを得るより、株主資本100億円の企業が10億円稼ぐほうが、はるかに易しいです。

また、株主資本1000億円の企業がリターンを110億円に増やすよりも(+10%)、株主資本100億円の企業が15億円に増やすほうが(+50%)、はるかに易しいです。

経済学用語で収穫逓減と言いますが、どのような仕事でも規模が大きくなるにつれて生産性が下がっていくのです。

補足
収穫逓減とは、どんな物事でも拡大する時は、最も生産性の高い部分から獲得していくため、拡大すればするほど、そのコストに対して得られるリターンが減っていくこと。
TOEICで300点の人が600点までスコアを伸ばすのは比較的できそうですが、700点の人が995点に伸ばすのはとても大変です。

もう一度、式を思い出してください。
企業が成長率を高めるには、投資率を高めるか、リターン率を増やすしかありません。

成長率(g)=純投資率×新規投資に対するリターン率

大企業は成長しづらい
大企業の場合、右辺左の純投資率は高めようと思っても、元々の資金が膨大なので、それに見合った大きな案件はそれほど見つかりません。
ですので純投資率はなかなか上がりづらいです。

ではリターン率を増やすしかないのですが、これも収穫逓減になってしまいます。
大企業ほど、すでに成長が頭打ちで成熟期に入っていることが多く、大きなリターンを得るのが難しくなります。
ですので、成長はそれほど見込めません。

中小企業は成長の見込みがある
一方、中小企業は大企業に比べて拡大途中にある企業が多く、大企業よりも多くの投資率を必要とします。
また、新興ビジネスであれば成長期で大企業との競争がまだ激しくないため、リターン率も高くなる可能性があります。

つまり、大企業に比べて大きな成長が期待できます。

企業価値と成長の重要な関係の計算

成長が企業価値にどのように影響するのか、計算を見てみましょう。

企業価値の差は成長率の違い

たとえば、同じ収益性を持った企業が2社あるとします。
両社とも、投資に対するリターン率は25%で同じです。

補足
リターン率25%=100万円投資すれば25万円のリターンがある

高成長を目指すA社は年間成長率を10%と決めます。
そのためには、毎年キャッシュを投資に回さなければなりません(投資なくしては成長がありませんから)。
短期的なキャッシュを犠牲にしてでも成長を目指す戦略です。

B社は控えめに、成長率を5%と定めます。
あまり成長する必要がないので投資にお金を回す学がそれほど多くなく、手元に残るキャッシュを増やそうという戦略です。

企業価値はキャッシュフローで判断するので、AB両社のキャッシュフローに注目してください。

a社成長

高成長a社グラフ

b社安定

高成長b社グラフ
リターン率(収益性)は同じでも成長率が違う場合、どちらの企業が企業価値が高いでしょうか。
エクセルを使えば、簡単に計算ができます。
両社の純利益額、そのうちの純投資額、そしてリターンであるキャッシュフローを表にまとめました。

A社は年10%の成長を保つために毎年純利益の40%を投資しなければなりません。
その分だけ手元に残るキャッシュ(=純利益額―純投資額)が当初は減ります。

B社は年5%の成長でよいので、純利益額のうち20%だけ投資に回せば済みます。
その分、キャッシュは残ります。

始めの年度は成長よりもキャッシュ優先のB社が良い成績ですが、8年目からはA社がキャッシュで逆転し、A社はそれ以降もずっとB社を上回るキャッシュを生み続けます。

企業は永続するのが前提ですから、A社は7年目までの遅れを十分すぎるほど取り返すことができます。

つまり、企業価値を増やすには成長率が非常に重要だということです。
そして成長のためには、収益力(ROIC)を高める努力も大切ですが、手元に資金を留保することを優先するのではなく、投資し続けることが重要なのです。

「収益の成長がバリュードライバーである」理由が実感できたでしょう

「成長か安定か」経営判断と投資

経営者はビジネスの局面に応じて正しい経営判断をしなければなりません。

  • 短期的には企業に残るキャッシュが少なくなっても、投資を優先して成長する
  • あるいは投資や成長は脇に追い割り、当面の利益を優先する

実際、ベンチャー企業に投資する投資家は目先の配当金はいらないから、そのキャッシュはどんどん追加投資に回してほしいと考えるはずです。
その方が成長が早くなり、企業価値を増大させてくれると考えるからです。

逆に、投資家が企業の内部留保を吐き出させようとしているのは、企業が明らかな余剰資金ため込みすぎているか、その企業は成長性がないと思っているサインです。

グーグルはバリュードライバー実践企業

グーグルは株主還元を控え高成長してきました。
世界的企業の代表であるグーグルは、業績が良いことでも有名です。

2016年12月時点で、時価総額はApple社と並んで、70兆円程度。
時価総額世界トップの座はその2社で争われています。

グーグルは、急成長を続けてきました。
2004年に米ナスダック市場に上場して以来、基本的に株主還元は配当・自社株買いどちらもゼロ。
余剰現金はすべて研究開発などの投資に優先的に回してきました。

グーグルの異例の株主還元

2015年、グーグルは自社株買いという形で異例の株主還元を決め、話題になりました。

米グーグルの持ち株会社アルファベットは22日、総額約51億ドル(約6100億円)の自社株買いを実施すると発表した。
2004年に上場したグーグルが保有する現金を自社株買いの形で株主に還元するのは初めて。自動運転車から不老不死の研究まで本業にとらわれない投資を続けてきたが、企業として成熟期に入り、株主をより意識した経営にかじを切る。

(引用)日本経済新聞 2015年10月24日 朝刊 「グーグル」初の自社株買い 持ち株会社が6100億円

なぜそれまで、配当などで株主還元をしてこなかったのでしょうか。

余剰現金を株主に還元するよりも、再投資した方が高いリターンを得られて、結果として将来にはより多くの現金を株主に還元できるようになるからです。

このような投資と利益のサイクルは高い成長を保っている企業だからできることです。

投資家もどちらが良いかをわかっているので、あえて短期的な株主還元などは求めません。
それを示すよう、株価もきれいな右肩上がりです。
グーグル株価
(参考)Yahoo!ファイナンス

投資は成長に欠かせないガソリン

傾向として、成長率の高い企業は株主還元が少なく、成熟気味で成長率が低い企業は株主還元が手厚いです。
ベンチャー企業はどんどんキャッシュを投資に回して成長しなければなりません。

一方、市場が飽和状態の大企業は、急成長を見込めないので還元を重視します。
キャッシュを生かせるようなよい投資先を見つけることが難しいので、それであれば内部留保するよりも株主還元したほうが良いということです。

企業価値を高める企業の条件

具体的に、成長と投資を実践し、企業価値を向上させるのに成功している企業の条件を解説します。

ポイントは、追加的な投資があまり必要でない固定費の低いビジネスで、売上規模を拡大するためのコストも比較的かからず、おまけに規模の経済を発揮できる企業です。

  • 1 シェアを拡大することで、規模の経済により固定費が相対的にかなり減らせる
  • 2 顧客を引き留めておいて、新規顧客も獲得できる需要優位性がある
  • 3 継続的な追加投資がそれほど必要でない
  • 4 世界的ブランドイメージなど、他社が簡単に真似できない競争優位がある

ソフトウエア企業

グーグル、アップル、マイクロソフト、フェイスブックなどは個人・法人向けソフトウエアを提供しています。

誰もが知っていて便利なサービスを提供していることから、条件の2と4を満たしています。
条件3については微妙で、実際莫大なサーバー投資、研究開発費などの人件費を費やしていますが、認知度と利便性を高め、規模を拡大することで固定費を減らしています(条件1)。

サービスを1000万人使っても1億人使っても提供するのにかかるコストはそれほど変わらないため、成長にかかるコストが低く、売上の成長に比例して利益が増えやすいビジネスです。

専門人材で勝負する企業

キーエンス、日本M&Aセンター、エムスリーなど、大きな設備を抱えず、優秀な人材を揃えることで勝負しています。

キーエンスは工場などの製造機械と営業のスペシャリスト社員を抱え、大手製造メーカーに他社より優れた提案することで顧客を獲得しています。(条件2)
工場の機械設備などの納品は下請けに委託しています。
自社工場を抱えない代わりに、自社工場を維持・追加投資するコストはかかりません。

ブランド力のあるロイヤルティー企業

コカ・コーラ、セブン&アイ、コメダ珈琲などはフランチャイズを展開して、加入者からのロイヤルティー収入で稼いでいます。

このようなビジネスモデルは、自社直営の工場・店舗を持つことはありますが、大きな収入源は加入者からのロイヤルティーです。

自社はブランド構築のためのプロモーション、製品開発、加入者への商品販売という卸機能に力を注いでいます。(条件2、条件4)
自社の店舗を増やすより、卸機能に注力することで、店舗への投資コストや、撤退コストを抑えられます。(条件3)
また、加入者数が増え、店舗数が増えれば増えるほど、自社で追加的にコストを負担しなくてもロイヤルティーが増えるという、利益成長しやすいモデルです。(条件1)

企業価値向上の条件
  • 企業価値向上の条件は投資の成長の両立
  • 強い企業は需要優位(シェア)とコスト優位を両立

 

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