このページでは、 「バフェットに学ぶ価値創造経営」手島直樹著の感想や解説をしていきます。
ウオーレン・バフェットを参考に株主と上場企業のあるべき関係について書かれた本です。
ファイナンス理論・数字を交えて専門的な見地から説得力のある解説をしています。
企業経営や企業価値向上を考える上でとても参考になります。
このような方は、ぜひ読まれることをおススメします。
- 上場企業の役員クラス・経営者・IR担当として投資家と対話する立場
- 投資家との対話でどのようなスタンスで臨めばよいのかヒントが欲しい方
- ビジネススクールで勉強したファイナンスの知識を企業経営に生かしたい方
- ファイナンス理論を学んだ(学んでいる)が企業価値を高める方法を知りたい経営層
第1章 「二刀流」企業価値創造経営―企業価値創造は結果ではなく目的である
第2章 「二刀流」財務マネジメント―資金配分こそバフェット流企業価値創造のカギ
第3章 取締役会の役割―本当に株主の利害を代表できているのか
第4章 株主の役割―「二刀流」に学ぶ株主への対応と株主としての行動
終章 バフェット流を実践するチェックリスト
手島直樹氏は小樽商科大学のビジネススクール(MBA)で准教授でいらっしゃいます。
経歴は慶応大学卒業後、外資系コンサルティングファーム→米ピッツバーグでMBA取得→日産自動車でゴーン社長のもと財務・IR担当と、実務と学問どちらにも通じた方です。
上場企業と株主との対話
上場企業の経営者なら、避けて通れないのが投資家との対話です。
近年、特に投資家目線の経営が求められています。
- 「伊藤レポート」でのROE目標
- コーポレートガバナンスコードなど金融庁からの投資家との対話重視
- 市場のグローバル化によるアクティビティスト(モノ言う株主)など機関投資家などの圧力
- 上場企業が過去最高を更新する内部留保への批判
- 株高傾向とはいえバブル半値戻しに過ぎず、世界市場では後れを取っている日本株
など、上場企業の課題は尽きることがありません。
そこで上場企業の経営者・役員、IR担当が頭を悩ますのが
- 投資家との対話
- 企業価値の増大経営
です。
投資家の強まるモノ言い
投資家からの要求は日増しに高まっています。
企業は、明確な経営方針を持ち、社内も投資家も納得させなければなりません。
といっても、小手先の財務テクニックでROEを高めたり、株主の要求に屈して配当金を増やしたり、流行に乗って社外取締役を増やしてみたり、そのようなことは外見に過ぎず、とても企業価値の向上にはつながりません。
投資家の要求は、シンプルです。
- 企業価値の向上経営
- その結果としての時価総額の最大化
これは無茶な要求ではなく、経営者が期待されていて当然なすべきことです。
企業価値向上は経営者と方針が一致しているはずです。
長期投資家と短期志向のアクティビティスト
もちろん、企業価値の増大は二の次の投資家もいることは事実です。
内部留保だけに目をつけて短期的に資金を吐き出させ、それが済めば撤退、という短期的なアクティビティストもいないわけではありません。
しかし、モノ言う株主だからと言って、必ずしもすべての投資家が短期志向だとは限りません。
米ブラックロック(ローレンス・フィンク代表)のように、短期的な利益や株主還元よりも、むしろ長期的な企業価値の向上に重きを置いてモノ言う投資家もいるのです。
上場企業経営者への提言本
この本では、「上場企業が投資家と付き合う方法」について、実務とファイナンスの専門家の立場から客観的に提言をしています。
提言は、世界で最も成功している投資家であり、かつ経営者であるウオーレン・バフェットの方法を参考にしています。
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(写真)ウオーレンバフェット氏 フォーブズ誌のレセプションにて 2017.9
ウオーレンバフェットはバリュー投資と呼ばれる割安銘柄を長期保有するスタイルの先駆けで、世界で最も成功した投資家です。
投資家であると同時に、実は若いころから自分でビジネスを持ち、今や100社ほどの事業会社を束ねるバークシャー・ハザウェイ社の経営者も務めてきました。
つまり、
- 投資家として経営者である自分や投資先の経営者を客観的に眺めてきた
- 経営者として投資家にどう接するべきかを模索してきた
という、経営者と投資家の二刀流だったわけです。
そして、投資家としても経営者としても類まれな成功を収めてきたオマケ付きです。
であれば、日本の上場企業の経営者が株主にどう接すべきか?のヒントは、バフェットに聞くのが早いです。
この本では、バフェットの哲学や実績だけを語るのではなく、実務とファイナンスの専門家の立場から客観的に分析して、すぐにできる方法を提案しているのが良いところです。
上場企業は価値向上経営がすべて
本書での提言はシンプルで明快です。
「上場企業は、企業価値を向上させる経営を行い、それ以外の価値を生まない余事は捨てなければならない」
「企業価値は何か?」を理解するのに役に立つのがファイナンス理論ですが、これは要点さえ押さえておけばOKです。
企業価値とは、リターンとコストの差である純粋な儲け(FCFフリーキャッシュフロー)を、金利とリスクを差し引いたDCF法で現在価値に割り引いたものです。
ざっくりといえば、企業価値は「将来儲けるはずの現金を、今の価値に直すと何円になるか」です。
本書ではリターンであるROICやFCF(フリーキャッシュフロー)、コスト(CAPMやWACC)について、より詳しく解説しています。
ここで重要なのは、「企業価値を高めたり減らしたりするバリュードライバーを知り、企業価値を高めることを逆算して経営資源を投入する」という合理的な経営方針です。
がむしゃらにシェア争い、グローバル化やM&Aを繰り返しても、的を射ていなければ企業価値は決して向上しません。
投資家も評価をしてくれません。
企業価値を高める要因を知るのが、本書で紹介している正しいファイナンスの知識の使い方です。
企業価値向上の3つの施策
企業価値向上の施策は、理解すること自体は簡単です。
つまりドライバーは3つのみで、
- リターン
- コスト
- 割引率
これらを適正にするだけなのです。
「そんな単純なことで経営は成功するのか?」
と思われるかもしれませんが、そもそも松下幸之助氏の言うように、経営はシンプルであるべきです。
鮮魚屋の商いと同じで、
- 安く仕入れて(コスト)
- 高く売って(リターン)
- 将来の金利や不確実なリスクを極力減らす(割引率)
これがができれば儲かります。
企業価値(事業価値)は向上します。
もっとファイナンス寄りの話をすれば、
- 開業資金や運転資金を抑える(コスト)
- キャッシュインフロー(現金収入)を増やす(リターン)
- 金利や事業リスクを抑える(割引率)
これでよいのです。
ファイナンス理論でも、現実のシンプルなビジネスモデルでも、収入と支出の差、そして「キャッシュはいつもらえるの?リスクはあるの?」が管理できれば絶対儲かるのは普遍の真理です。
とはいえ、この単純なことほど、実行するのが難しいのです。
コーポレートガバナンスコードの順守や、アニュアルレポートの書き方や、株主総会のスムーズな進行、社外取締役の任用、CSRは、悪いことではありませんが、企業価値の向上に直接的に貢献してくれません。
投資家は、企業価値向上経営を期待しているのです。
理論武装はマーケット・インテリジェンス
では高度なファイナンス理論は役に立たないのかというと、そうではありません。
投資家はあらゆる角度から予想外の提案・意見・批判をしてきます。
中には高度なファイナンス理論でもっともらしいことを主張する投資家もいます。
そのような投資家の主張を正確に理解し、また自社の方針を説得力を持って語るには、やはりファイナンスの知識は不可欠です。
相手を煙に巻いたり、理論に浸るためのファイナンスの知識ではなく、議論で負けないために正しい知識は必要です。
本書は専門的な内容ももちろん含みますが、基本的にはビジネスパーソンなら理解できる内容です。
実践的なファイナンスの勉強にも役立つでしょう。
投資家は企業のパートナー
正しいファイナンスの知識を身に着け、意識を企業価値の向上に集中した経営者にとって、株主はよき助言を与えてくれるパートナーです。
経営者と投資家がともに長期的な企業価値に視点を合わせれば、建設的な議論が生まれます。
また、レバレッジを高めてROEを高く見せかけたり、監査役設置会をに監査等委員会設置会社に移行したり、IFRSを導入したり、株主還元を増やしたりと、「本質的ではないのに外見上はよく見える茶番」に、貴重な経営資源を浪費することを防いでくれます。
バフェットの率いるバークシャー・ハザウェイ社は個人の固定株主がとても多いです。
5年間で株主の入れ替わりは10%にも満ちません。
どうしても資金が必要で株を手放さざるを得なかったとか、相続したとか、そのような株主も含めてその数字です。
いかにバフェットが成果を収め、信頼を集めてきたかがわかります。
地元である田舎地オマハでの株主総会は一大イベントになっており、1年で地元の空港が最も混雑する期間です。
まとめ
近年、上場企業は投資家との対話の圧力が高まっています。
ROE、社外取締役、株主還元などが、とりあえずやっておくべきコンセンサスになっています。
しかし一流の経営者であり投資家であるバフェットは、そんな小手先のテクニックは気にしていません。
むしろバフェットは企業価値を向上させるドライバーと、そうでないものを明確に区別し、企業価値を想像することだけに集中してきたことで、大成功を収めてきました。
その結果、企業価値も高まり、株主とパートナー関係を築くことに成功しています。
しかし残念ながら日本の多くの上場企業は目的と手段を混同しているように見えます。
- 「ROEのかさましのための負債比率操作」
- 「社外取締役の比率を議決権行使の判断基準」
- 「フェアトレード」
など、企業価値とはピントが外れたところで議決権行使を判断するなど、良い例でしょう。
本書での経営者への提言は、「企業価値を高めるためにすべきことを理解して本業で稼ぐことに集中せよ」です。
必要なファイナンスの知識は専門的・実務的な立場から本書で学ぶことができます。
第1章 「二刀流」企業価値創造経営―企業価値創造は結果ではなく目的である
第2章 「二刀流」財務マネジメント―資金配分こそバフェット流企業価値創造のカギ
第3章 取締役会の役割―本当に株主の利害を代表できているのか
第4章 株主の役割―「二刀流」に学ぶ株主への対応と株主としての行動
終章 バフェット流を実践するチェックリスト
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