企業価値評価(バリュエーション)の計算方法と考え方

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このページでは、企業価値評価(バリュエーション)の方法を解説します。

企業価値は、財務諸表を分析することで計算・評価できます。

色々な方法がありますが、ここはマッキンゼー&カンパニーの方法に従った、スタンダードな方法をつかいます。

企業価値評価は株式投資で重要なのはもちろん、経営者やビジネスパーソンにも役に立ちます。

  • 企業価値評価の計算や方法を知りたい
  • 企業価値評価を経営や投資など実務に生かしたい
  • M&A・投資・非上場企業にも使える実践的な方法を知りたい

企業価値評価とは

まずは企業価値評価とは何かを解説します。

企業価値の2つの要素

企業価値は2つの要素で構成されています。

  • 企業が保有している資産の価値
  • 将来のキャッシュフロー

これらを別々に計算し、合計することで企業価値がわかります。

企業価値評価と株価

企業価値評価と株価の関係にも触れておきましょう。

企業価値と株価は違います。

たとえばバフェットのようなバリュー投資は、株価でなく企業価値の評価に重きを置きます。

自分で評価・計算した企業価値よりも大幅に株価が低いなら買い、高いなら売りとシンプルな戦略です。

投資が大変なのは、株価の分析ではなく、むしろ企業価値の評価です。

株価は情緒不安定
株価はあくまでも市場の中で今評価されている暫定価格にすぎません。
一時的な需給で決められるため、短期的にコロコロ変わり、予想は非常に困難です。

相場が弱気なら必要以上に大きく下げ、好材料があればバブルのように上昇し続けることもあります。

株価は短期的な需給で変わるため、企業価値の乖離も大いにあり得ます。
市場の評価(株価)が低くても、実際はそれよりもはるかに多くのお金を稼ぐ力のある企業は存在します。

逆に、市場の評価が高くても、それほど稼ぐ力のない企業もあります。

このように移り変わりやすく予測が難しいものを、投資家はあまり熱心に予測しようとしません。
もっともらしいテクニカル分析は世界中に山ほどありますが、長期的に成果を上げられる保証はありません。
「できないものはできない」と割り切り、できること(=企業価値評価)に力を注ぎます。

企業価値は安定している
企業価値は、市場で評価されているかを示す価格とは別に存在する、企業本来の価値です。
価値とは将来の潜在力、目標株価、トレンドとか、そのような観測・予想に基づくものではありません。

企業価値はチャート分析とは違い、理屈立てて、数字をもって具体的に計算できるものです。

  • 企業の事業や競合との優位性
  • 会計的に正しい資産価値ではなく今の本当の資産価値
  • 表面的なあいまいさの残る「当期純利益」ではなくキャッシュフロー

これらの要素を、あいまいさをなるべく減らし、客観的に計算します。

資産価値やキャッシュフローはコツをつかみ財務諸表などの公開情報を丹念に読み込めば正確に分析できます。
企業価値評価は予測が難しい株価ではなく、計算ができる企業価値をきっちり評価します。

ビジネスでも投資でも、こうして勝率を上げるのが堅実な投資です。

企業価値評価と資産価値

では企業価値評価のうち、資産価値の評価の方法を具体的に見ていきましょう。

企業価値評価とバランスシート

現在企業が保有している資産は、バランスシートに載っている資産の厳密な現在価値です。
今企業が保有している資産をすべて時価に直し、そこから債務を差し引けばOKです。

  • 「投資家目線でバランスシートを分析する方法」
  • 「バランスシートから、企業の本当の価値を計算する方法」

この方法を理解するだけでも、クリティカルな経営判断やお宝企業を発掘する投資の重要なヒントがわかります。

企業価値とファイナンスの仕組み

企業は営業活動に必要な資金を外部から調達します。
それには2通りで、「お金を借りる」「株主に出資してもらう」です。

補足
企業財務を勉強された方は、3通りと答えるかもしれません。
銀行融資、社債発行、株主の出資です。借金の中にも社債の発行と銀行からの借入があります。

しかしここでは、資金調達には負債か、株主の出資かのどちらかだと大雑把な理解でOKです。

調達した資金は、自社ビル・工場や機械・備品の購入、あるいは人件費や光熱代、広告などの費用に充てます。
基本的には調達した資金はそのままで持っていては意味がないので何かに使います。
そしてすぐに必要になる運転資金は最低限手元に保有します。

株主の財産は負債と分けて考える
株主(あなた)にとっての企業の持ち分は、企業の総資産の総額から、負債を差し引いた残額です。
企業が潰れて資産を分ける時、まず銀行(債権者)が優先的に配分されます。

株式には満期はありませんし企業の返済義務もありません。
一方で、負債は満期があり、元本と利子が保証されています。

ですから債権者が取り分けた分の残りが株主のものと考えます。

総資産100万円の企業があり、株主の出資は40万円、銀行からの融資が60万円だとします。
ならば株主の持ち分は40万円です。

 

総資産が100万円から120万円に値上がりしたとします。

ならば、60万円分が銀行で、残りが株主に割り当てられるので、現在の株主にとっての資産価値は60万円です。

業績の悪化や子会社の減損などで総資産が100万円から80万円に値下がりしたとします。
ならば、60万円分が銀行なのは同じで、残りの20万円を株主で割り当てます。
この時株主は40万円の出資に対して20万円の価値を保有していることになるので、20万円の損です。

資産の価値を再評価してみて、「それが高い、低い」と安易に考えず、必ず負債も差し引いたうえで割安かどうかを判断してください。
バランスシート

企業価値評価とバランスシート分析

資産を取得した時の価額を簿価、その後、未来に再度評価された時点での資産価格を時価といいます。

もし会社を始める時に調達したのが100万円であり、今も簿価通りに100万円の価値があるという単純な話なら簡単です。
しかし残念ながらそうではありません。(ここが面白いところでもあるのですが)

減価償却費

企業の資産は100万円で購入したからと言って、そのまま価値が100万円であり続けるわけではありません。
100万円で買った新車が中古に出す時は安くなるのと同じです。

毎年、使用されていくにしたがって資産は減耗し、いつか使えなくなります。
それを会計上表現するため、「今年、社用車を使用たからこれだけ資産価値が減った」と減価償却費を費用に計上し、バランスシートからも資産を減価していきます。

つまり100万円購入した車は、数年後には会計上の資産価格が半分に、いつかは0円になるのです。
しかし車に限らず工場、PC、工作機械、自社ビルなど、そのような方法で、正確な今の価値を表せるわけではありません。

現実に転売しようと思った時、予想よりも早く老朽化して簿価よりも価値が下がるケースもあり得ますし、また逆に希少価値が上がるケースもあります。

この会計と現実の資産価値とのズレは必ず起こります。
そのズレを見抜けば、必要以上に過小評価されている資産も見つけられる可能性があります。

のれん

怖いのはのれんです。
買収を繰り返しているグローバル企業は絶対に注意しなければなりません。

大企業がある企業を買収する時、時価総額よりも数%~時に数十%上乗せ(プレミアム)を払うのが普通です。
たとえば時価総額100億円の企業を120億円で買収すれば、プレミアム20億円分が、「のれん」として資産に計上されます。

主に大企業が採用している国際会計基準では、この「のれん」は減価償却などをせず、未来永劫20億円のまま計上することができます。

ただし、買収された企業が「当初思っていたほどの収益を上げられない」と判断された場合には、「資産を過剰に計上していた」ということを意味するので、必要に応じて減損します。

資産には20億円ののれんが計上されていても、実際の企業価値はせいぜい5億円程度だとわかったら、15億円分を資産から減らすのです。

売掛金

売掛金も、ヒントがあります。
いくら売上高が上がって収入額が増えたとしても、しかしそれはツケ払いならば、まだ手元には現金が入ってきてい状況を意味します。

自社からすれば売り上げに必要だった経費、例えば人件費や広告費や仕入れなどの費用負担をしているのに、それは払うアテの売り上げが手元にまだないならば、費用負担や、金利の負担は自腹でしなければなりません。

つまり売上高が増えていれば直ちに安全と言うわけではありません。
それに伴って、費用負担が過度に増えていないかとか、売上高の増加分によりも多く、促販キャンペーンなどで広告費を費やしてしまっていては意味がないのです。

アップル社は、iPhoneなど自社製品を顧客に届けるよりも早く顧客からの現金の入金があります。

つまり、促販活動や物流等のコストをアップルが負担するよりも早くに顧客からの現金の入金があるので、資金繰りに困るどころか、手元資金が非常に潤沢になるのです。

これは単純な会計上の利益と言う概念からは見えないプラスの要素です。

企業価値評価と優良企業

このように、バランスシートを読み込めば「意外と危ない企業」「意外な優良企業」を発掘できます。
なかには、隠れた価値を秘めている企業もあります。

バランスシート2

これだけ資産価値は複雑なのに、PBRは株価と株主資本(純資産)を単純に比べようとしています。
たしかに便利な指標ですが、株主資本は会計上の用語だという点に注意が必要です。

減価償却費やのれん以外にも、買掛金、売掛金、有価証券、有形固定資産、無形固定資産、新株予約権など、バランスシートから本当の企業価値を探すための重要なワードはたくさんあります。
詳しくは別のページで解説します。

今の所は、「正しい企業価値評価とは何か」の感覚さえ掴んでもらえればOKです。

企業価値評価とキヤノン

企業価値評価を理解しやすいように、キヤノンの具体例を使って解説します。

バランスシートは超キャッシュリッチ

キヤノンは2016年3月に、東芝の虎の子の医療部門である東芝メディカルシステムズの買収を発表しました。

買収額は6655億円です。
M&A案件の中でも、これは大きな額です。

これだけの額をすぐに出せるキヤノンの財務の強さがわかります。
現在の資産の豊富さを見るという目的で財務諸表を見てみましょう。

キヤノンBS

バランスシート(貸借対照表)
資産が4兆4277億円に対して、すぐに現金化ができる流動資産は2兆0571億円と46%です。
現金及び現金同等物に限っても、6336億円と、14.3%を占めます。

負債を見ると、負債合計が1兆2433億円と28%です。
これだけでも流動資産によって余裕でカバーできることがわかりますが、実質的な借金である短期借入金及び一年以内に返済する長期債務6億円と長期債務8億円を足しても、わずか16億円(!)にすぎません。

つまり、すぐに現金化できる資産によって負債の2倍程度カバーできますし、実質無借金で現金および現金同等物が6336億円もあります。
豊富な資産があるわけですから、当然すぐに現金化できる資産は他にもあることが予想できます。
これを見ると、この程度の買収資金は余裕だということがわかります。

(引用)キヤノンHP 「有価証券報告書(第115期)

ここまでの企業価値評価と資産価値まとめ
  • 企業価値は保有資産とキャッシュフロー
  • 資産はバランスシートに載っているが、時価と簿価は違う
  • 企業価値評価では、それぞれの資産の時価を見て価値を計算する

 

企業価値評価とキャッシュフロー

資産価値の評価の次は、「企業が将来稼ぐキャッシュフロー」を評価する方法です。

キャッシュフローとは

キャッシュフローは、純利益とは違います。
原材料費や買掛金、利息や税金などを全て払い、手元に残った、完全に自由にできる儲けです。

フリーキャッシュフロー(FCF)は営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを除いたものですが、とりあえずはこのフリーキャッシュフローと考えてもらってOKです。

これは内部留保してもよし、追加投資してもよし、株主還元してもよし、とまさに企業が自由に再配分できるお金です。

上のページでは、「現在の企業が保有する資産価値は時価によって決まる」と解説しています。
総資産から、債権者の持ち分を除外すれば株主の持ち分が分かります。

しかし重要なのは現在の資産だけではありません。
企業の資産は、利益を生みだすためのものです。

現在の資産が豊富にあるのも大事ですが、それよりも
将来にわたってキャッシュフローを稼ぎ続ける収益力」が期待されているのです。

企業は永続が前提です。
株式に満期がないのもそのためです。

将来にわたって企業が生み出し続けてくれるキャッシュを期待するからこそ、株主はあえて保証のない株式を保有するのです。

企業価値を高めるキャッシュフロー

株主が期待する金銭的メリットのうち、将来のキャッシュは、(今の資産がどうであれ)非常に大きな要素を占めます。

現在の資産は分配したら終わりですが、将来のキャッシュは企業が存続している限り、(もちろんある程度黒字でなければなりませんが)永遠に生み出され続けられるものだからです。

現在の資産の比ではありません。

投資家は、キャッシュフローを稼ぐ力を、なるべく正確に評価しようと力を注ぎます。

現在の会社の資産価値に加え、この将来のキャッシュフローを期待して、企業に投資をするのです。

キャッシュフローと再配分
投資家が最も重視する「儲け」や「利益」は、「再配分可能なキャッシュ」を意味します。

収益性って「利益」じゃないの?
「再配分」とか言われても

ごもっともです。
順番に解説します。
理解できれば、非常に現実的で重要な概念だと分かるでしょう。

キャッシュフローと「利益」

資産評価では、「会計上の数字を鵜呑みにしてはいけない」と伝えました。
それは収益性の話でも同様です。

会計上の「当期純利益」は、「最終的に企業の手元に残り、配当や内部留保の原資になるもの」と、どのようにも使ってもよいお金として考えられています。
しかしバリュー投資の観点から見れば、残念ながらそれは正しくありません。

投資家が注目しなければならないのが「最終的に企業の手元に残り、配当や内部留保の原資になるもの」であるのは確かです。
しかし、それが「当期純利益」と完全に一致するわけではありません。

「当期純利益」は、売上高から原材料費、営業費用、支払い利息、突発的に発生した費用、そして法人税などを引いて求められます。
一見、「最終的に手元に残った現金」かのようにも見えますが、違います。

売上高

売上高は、売掛によって、実際に手元に現金が入金されていなくても計上できます。
会計上は売上が伸びているのにツケ収入ばかりで現金が手元に入ってきていない場合もあり得ます。
そうすると費用の支払いばかりが先に来て、資金繰りが苦しくなってきます。
極論すると、利益が出ていても黒字倒産する企業があるわけです。

成長しているよう見せるために多めに売上を計上しておいて、あとで現金収入がなかった、という状況もあり得ます。

投資家は、「売上がどの程度利益に結びついているのか」「あとで不自然な損失処理がないか」「現金収入を伴っているか」などをきちんと確認してあいまいさを防げます。

原材料費

原材料費も、ガソリンスタンドなどは厄介です。
原油の仕入れ値は毎日のように変動します。
「昔大量に仕入れた原油があり、今年はたまたま原油が安く仕入れられた。今年安く仕入れた原油を、先に客に出すテイにしよう」
こうすれば、原材料費は安く見せかけることができるため、利益が膨らみます。

むしろ過去の仕入れ値を遡って把握することで、正確な原材料費が割り出せます。

営業費用

減価償却費は現金支出しているわけではないので、その分は純利益に上乗せができます。
つまり減価償却費が多ければ多いほど、利益が過小評価されているのでお宝銘柄発券のチャンスが増えます。

人件費は、人手が第一のサービス業では注意すべきです。
運送や小売店などで売り上げが急増しているのに人件費が増えていなければ、かなりの業務効率化が成功しているか、もしくは未払いの残業代があるか、売上高が過大かです。

ヤマト運輸は、アマゾンの委託によって売上や配達件数が増えていたのに、人件費の伸びがそれほどではありませんでしたが、その後未払い残業代が発覚しました。

本当のキャッシュフローを計算

などなど、会計と実際の現金のズレをめぐる動きは話が尽きません。
一番言いたかったのは、これです。

  • 1 会計上の「利益」は、意外と真実と乖離している
  • 2 しかし、財務諸表を細かく分析することで、企業の本当の姿を評価できる
  • 3 財務諸表から、企業の本当のキャッシュフローを読み解くべき

会計上正しくて将来入ってくるかどうかもわからないお金と、帳簿では必ずしも見分けが難しくても、実際に手元に増えているお金のどちらが重要でしょうか。

投資家や株主にとって、どちらが大事なのかは言うまでもありません。
そして賢い投資家は、例外なく、「会計上の利益」を参考に、企業が本質的に抱えている、自由にできるキャッシュフローのほうに重きを置きます。

そのキャッシュとは、原材料費、人件費、支払い利息や税金などを払い終わったあとのものです。
未来のための研究開発・設備などの投資に回してもよいし、自社株買いや配当などの株主還元にも使えるし、現金や株などの形で留保してもよい完全にフリーハンドのものです。

再配分可能なキャッシュとは、このような意味です。

バリュー投資家は、財務諸表を分析することで、当期純利益ではなく客観的な再配分可能なキャッシュフローを計算します。
重要なのは、どのぐらいのお金が出て行って、どのぐらいのお金が入ってきたのか、その1年間でどれくらい自由にできるお金が増えたかです。

企業価値評価とサイバーダイン

企業の資産の現在価値がごくわずか、あるいはマイナスであっても、将来の価値を期待して投資を集めている企業があります。
それがCYBERDYNE(東証マザーズ7779)です。

サイバーダインとは
人の力を増幅させる、あるいは身体の不自由な人の動作のサポートを目的に、高い技術力でロボットスーツなどの運動サポート機器を提供するベンチャー企業です。

創業者の山海嘉之社長は根っからの職人気質で、研究にひたむきに打ち込む姿と、人の役に立つものを作るという理念は多くのファンを集めています。

企業価値評価と赤字企業

2014年に上場を果たしましたが、一度も黒字を達成したことがありません。(2017年10月)
それどころか、売上高を上回るような営業損失が続いています。
今の資産状況だけを考えれば、財務状況は非常に厳しいはずです。

しかし、株価は比較的堅調に推移してきています。
2016年6月1日には上場来最高値の2,629円を更新しました。

発行済み株式数は137,347,609株ですから、時価総額は3610億円です。
2016年3月期の決算で、売上高が12億円、営業損失が12億円の企業に対して、この株価がつくわけです。
サイバーダイン株価

(参考)株価データサイト k-db.com http://k-db.com/

なぜ赤字企業が時価総額1000億円を超えるのか
これは投資家が、将来稼いでくれるはずのキャッシュを期待しているということの何よりの表れです。
将来のキャッシュこそが重要なのです。

企業価値評価のまとめ
  • 企業価値は、「保有資産」と「将来のキャッシュフロー」で評価
  • どちらも会計数値を鵜呑みにするのではなく客観的な価値を分析する
  • 将来のキャッシュフローは企業価値の多くを占めるためしっかり分析する

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