のれんとは。会計「のれん」の意味・計算・償却をわかりやすく解説。

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会計ののれん」(のれん代)と「減損」の考え方をやさしく解説します。

高額なのれんを計上していることで有名なソフトバンクと、M&Aに伴って負ののれんで利益計上してきたライザップのケースを参考にします。

補足
2018/11/15 ライザップの件を追記
  • のれんの意味
  • のれんの仕組み
  • のれんと減損
  • のれんの具体例(ソフトバンク)
  • 負ののれんの具体例(ライザップ)

財務会計を学びたい方や企業価値評価をしたい方、ビジネスパーソンや投資家にも役立つ内容です。

意外と落とし穴があるのが会計のルールですが、のれんも実はあいまいです。
企業買収を繰り返しているソフトバンクを例にとって解説していきます。

「のれん」とは

はじめに、のれんの意味と、会計での処理の仕組みです。

のれんは買収プレミアム

のれんとは、「企業を買収した時、買収された企業の時価を上回って支払ったプレミアム分の価格のことです。

 

たとえば時価総額が100億円の企業を120億円で買収したなら、20億円のプレミアムがバランスシートの資産欄にのれんとして計上されます。

これだけを聞くと不思議に思いませんか?

本来100億円で買えたはずのものを高く買っている。
それは損なのに、なぜ資産が増えたことになっているのか?

この疑問はもっともです。

なぜ買収プレミアムが資産になるかというと、その背景には企業活動に対する考え方があります。

企業の資産は、リターンを生み出す原資

企業は、負債や株主出資などで資金を調達します。
その資金は現金のまま残ることはほとんどなく、2通りの使い方をされます。

  • 人件費、オフィス賃料、広告費、仕入れなどの費用として消える。
  • 工場、社用車、自社ビル、特許、子会社の買収などに投資されて資産として残る。

前者の費用は使えば消えてしまいますが、後者の資産は有形・無形問わず形として残り、バランスシートにも資産として記載されます。

この資産とは、「今後有効活用されて、新たな利益を生み出す原資」として考えられているのです。

話を戻して、買収プレミアムとは、「企業の時価総額などの価値に上乗せして払う差額」でした。

「うちの企業なら買収された企業と相乗効果(シナジー)を発揮して、その企業が買収される前よりも効率的に利益を生むことができる」

「うちの傘下になってしっかり監督すれば、より経営を効率化して利益を増やせる。」

だからこそ、プレミアムが資産になるのです。

言い換えれば買収プレミアムという資産は、「企業のブランド力や支配することの価値」です。

そのうえで、「将来期待できる利益アップを見込んでの期待価格」という性格を持ちます。

のれんと償却

もうひとつ、バランスシートに記載された後のルールを解説しましょう。

のれんは企業買収が無事終われば、買収した親会社のバランスシートの資産として記載されます。

しかしその後、永久に載り続けるわけではありません。

会計では「減価償却」といって、建物や社用車など、使ったり年数が経過すれば徐々に価値が落ちていくものは、バランスシートからも、利益からも差し引かれてゆきます。

具体的には「売上高総利益」から引かれる「営業費用」の中に「減価償却費」が含まれています。

これと同じく、のれん代も償却していくのです。(日本会計基準のみ)

「将来の利益アップを期待できる子会社という資産」が、減っていくわけです。

何かピンときません。

たとえば買収プレミアムを毎年減らしていって、〇〇年で完全に価値がゼロになったとして、その後は会計の示すように、追加的リターンを上げてはくれないのでしょうか?

これが良いのか不十分なのかについては次に解説します。

のれんの問題

のれんのしくみについて理解できたところで、のれんお問題点を解説します。

のれんは「子企業をコントロールして将来の利益アップを見込んでの価値ある資産」ですが、ならば

「どのくらいの利益アップが想定できるのか」
「その想定はどれほど合理的に計算されたのか」

つまり「のれん(=買収プレミアムの額)が妥当なのか」を考えなければなりません。

のれんと企業価値評価

そもそも企業価値を測るのは1社だけでも大変な作業です。
しかもほとんど当たりません。

高い教育を受け、専門知識を身に着け、能力の高い企業アナリストが本気で企業を分析しても、将来を言い当てるのは難しいのです。

まして、M&Aなどで企業が統合した後の話となると、不確実要素が多すぎます。

  • 従業員は何人カットするのか?
  • 人材の再配置はどうするのか?
  • 労働組合の反発もあるが、計画通りに進むのか?
  • 物流網の共同利用という戦略があるが、物流コスト全体が上がっている中で従来通りの予測が通用するのか?
  • これまで親会社と子会社に争っていた商品はどちらも存続させるのか?
あらゆる経営活動の中でも、企業買収とは超大変な作業です。
なのに「〇〇億円のシナジー効果が見込める」などと断言するのは、目隠しでダーツを的に当てるようなものです。

実際のところ、買う側の経営者が、「こうあってほしい」という希望的観測も混じってしまうのではないでしょうか。

のれんと減損

「のれんの減損」とは、企業価値評価の難しさを裏付けるような出来事です。
買収した後も、「のれんの価値が実際よりも損なわれた」と思えるような事態が発生すれば、のれんの価格をバランスシートから減らし、利益からも削ります。(減損処理)

そのような事態とは、

  • 予測していたよりも業績が好ましくなかった
  • 調査不足で環境性能が悪い工場だと気づかず稼働は難しいことが分かった
  • 不祥事でブランド価値が毀損した
など「稼ぐ力が弱まった」と考えられる場合です。

調べればたくさん出てきます。

しかもこの減損、予想外のことが起こった時にのれんの資産価値を減らすのは当然ですが、「いつ」「どれだけ」減らすかは経営者の裁量に任されています。

普通、何か事が起こった時、上場企業なら株価が下がるなど市場という外部によって調整されます。
しかし、いったん親会社の傘下に入ってしまったら、外部ではなく経営者自身が任意で価値を判断できてしまいます。

市場の監視機能が効きづらいのが問題です。

東芝の米国の原発の減損も、富士ゼロックスの豪州での子会社の減損も、明るみにはなりましたがその時期が適切だったのかは、わかりません。

究極的には、経営者の経営能力やその経営者がコントロールする会社全体の組織能力を、その経営者自体が主観的に予測することになってしまう

(引用)「IFRSに異議あり」 岩井克人著 日本経済新聞出版社 2011.5.19

正しい買収プレミアムなど測れないのだから、暫定的な数字として考えるべきでしょう。

のれんと買収価格

仮に、ある程度妥当な線でのれんが算定できたとしましょう。
そして、その数字をもって、企業は相手企業との買収交渉に臨みます。

交渉事で、いくら「御社の企業価値はこの線が妥当ですよ」と言ったところで、売る側からすれば少しでも高く買ってもらいたいのは当然でしょう。

買収される側の企業のバックには株主もいます。
株主が納得できないくらいの高値で売却されてしまえば、当然反発もあります。

「シナジー料としてのプレミアム」とか「利益アップのための前向きな資産」とは言いますが、交渉事ですから必ずしもその通り決まるのではなく、価格は両社が折り合えることのできる枠に収まることがほとんどです。

このように、のれんは実はとてもあいまいな問題を抱えています。

2018年「のれん償却 IFRS検討」報道

このようなのれんの減損処理の曖昧さは企業経営者からすれば利益の押し上げ、あるいは損失の先送りとして活用できてしまいます。

そんな問題に対して、国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)ハンス・フーガーホースト議長は手を打とうとしています。

変わる会計 ルール共通化の波紋(1) 「遅すぎる減損」に危機感 のれん償却 IFRS検討
会計処理の方法が見直される可能性が出てきた。国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)がのれんの償却を導入する検討に入った。
2018/10/19日本経済新聞

内容はのれんの定期償却を義務付けることを検討するというもので、今後仮に運用されればIFRS導入企業はのれんを償却などによって毎年経常利益が押し下げられていくことになりそうです。

のれんと会計基準

会計基準をめぐっても、資産の処理の方法に問題があります。

電卓とノート

上でも触れたように、日本の会計基準では「のれん」は工場や機械と同様に定期的に減価償却(資産価値を減らしていくこと)されてしまいます。

一方、米国会計基準と国際会計基準(IFRS)であれば、基本的に減価償却はしません。
減損するのは、何かビジネスの環境が大きく変わったり、事故があったり、リーマンショックのような、
予想外のネガティブな出来事があった時だけです。

日米のれん償却

日本会計基準の根底にあるのは、のれんという資産の力は毎年徐々に価値が下がってゆくという考え方です。

しかし、アサヒスーパードライと記銘されている缶ビールを買いたいという私たちの気持ちは、今年よりも来年の方が必ず下がるのでしょうか。
レクサスのエンブレムの威光は、来年の方が落ちるのでしょうか。

この点は疑問に感じる経営者も投資家も多く、日本基準から海外基準に切り替える企業は増えています。

特に買収を繰り返す企業は、日本基準ではのれんの定期償却で資産が減ること、また減る分(償却分)はを費用として利益から差し引かれてしまうことを嫌って、米国基準・国際基準に切り替えています。

代表は、

  • ソフトバンク
  • JT
  • キリン
  • 武田薬品工業
  • アサヒ
  • 味の素
  • トヨタ

など海外でも買収や投資に積極的な主力企業ばかりです。
JTのような大企業だと、会計基準を変えただけで経常利益に数100億円レベルの上乗せ効果があります。

(参考)PwCあらた有限責任監査法人HP「第8回 のれんの減損」あらた監査法人 公認会計士 清水毅

のれんとソフトバンク

のれんの話をより理解するために、ソフトバンクの具体例を見ましょう。

アーム買収でのれんは3兆円

2016年、ソフトバンクはイギリスのアーム社を買収しました。
アームの自己資本は2016年6月で約2500億円、買収額は約3.3兆円でした。

その3.25兆円ものプレミアムは、「アーム単独の自己資本では測れないが、ソフトバンクとの協業によって生まれる潜在的な価値」です。

ソフトバンクは国際会計基準です。
ですので、アーム社の業績見通しが急に悪化するなどの特別なことがない限り、プレミアムは持続します。

もし日本会計基準であれば、毎年のれんが減価償却されてしまうので資産が目減りしていきます。

しかしソフトバンクは日本会計基準とは違って、バランスシートには「のれん」は焼却されずに同じ額のまま載り続けます。
米国基準も同じです。
アームのれんのみ

ソフトバンクbs

(引用)ソフトバンクHP 四半期報告書(第37期第2四半期)

この発表を受けた直後、市場は巨額のプレミアムに驚きました。

アームの半導体設計の力は認めるにしても、いくら何でも出しすぎじゃないか

ソフトバンクの孫社長自身は、テレビ東京のインタビューで「いやあ、安かったなあ」と言っていましたが、本心はどうか分かりません。

慎重な見方をする人は、

巨額ののれんがあるということは、その分だけいつか減損するリスクも抱えているということ。
減損を迫られる事態になれば、自己資本を削らなければならない。
ただでさえ負債が多いのにさらに自己資本が減れば財務状況が悪化する危険がある

と考えます。

のれんと監査法人

のれんの評価額を決めるのは最終的には経営者ですが、妥当かどうか判断するのは監査法人の会計士たちです。

経営者は、将来性に期待をもって企業を買収したわけですし、企業価値を高く保ちたいのでのれんの評価額は高く見せたいです。

しかし監査法人は、保守的で慎重です。
「もし過大評価していたら」
「もし予想通りの成果が出なかったら」
このことを考えます。

このように、真っ向から利害が対立する両社で議論を重ねながら、最終的には、経営者と監査法人との間で折り合える「のれん」額がバランスシートに載ります。
あるいは、減損します。

この、経営者と監査法人の折り合いの難しさが記事になっています。

2017.12.21 日本経済新聞 朝刊
巨額買収、のれん巡りせめぎ合い 揺れる監査法人(中)

負ののれんとは。ライザップの例

負ののれんとは、のれんとは逆の話です。

企業価値よりも割安で買うことができれば、その差額は分は買収する側からすればラッキーです。
その得した差額分を、特別利益として当期の利益に追加計上するのが負ののれんです。

補足
日本会計基準の場合は営業利益外の、「特別利益」です。
国際会計基準(IFRS)では、「営業利益」に計上されます。

例えば時価総額が1億円の会社を、7,000万円で買えれば差額の3,000万円が利益として損益計算書に計上できます。

「お得に買ったのだから、それは計上されるべきだ」とは一見正しいように感じるかもしれません。

しかし、この問題点がお分かりでしょうか。

それは、手元に一切現金が入ってきていないのに会計上は利益が計上されていて、実体がないのにあたかも儲かっているかのような錯覚を誘ってしまうことです。

先ほど解説したように、企業価値を正しく計算するのは人によって千差万別で、絶対的な方法はありません。
そもそも企業価値とは将来の利益をある程度予測した上で割り出すのですが、将来を正しく予測することは誰にも不可能なので、ある程度の納得できそうな説明ができれば恣意的に高くも安くもすることができます。

たとえば、5,000万円で買おうとしている会社を、あえて楽観的なシナリオを用意して企業価値を2億円でも3億円でも高く見積もれば、利益をカサ増しできる仕組みです。

企業は本業で物を売って、コストを抑えて、その差額が利益になる流れが基本です。
ですが、このような負ののれんの仕組みを使えばいとも簡単に特別利益が増えます。

「本来1億円の企業を、7,000万円で買えたのはお得」という理屈を通すには「そもそも買収された企業は、自社に7,000万円の価値しかないとわかっていたからその値段で売ったのでは?」という疑問に答えなければなりません。

事業拡大の手段としてM&Aを使うのは特に悪いことではありませんが、M&Aの結果として得られる特別利益が目的化するのは本末転倒です。

ライザップが行ってきたのはまさにこの負ののれんによる利益の計上です。

赤字企業のM&Aを繰り返し、負ののれんによる利益を計上して、実態のない利益を積み重ねてきましたが、赤字企業を立て直すには相当なエネルギーが必要です。
なんとか回復させようとしてもうまくいかない場合、子会社が赤字では連結利益も悪化します。本業でカバーできるのならば良いですが、そうでなければ黒字を演出するためにまた次の買収による負ののれんに頼ってしまうという構図になってしまいます。

これからは不採算の子会社のうち、残すべきものとそうでないものを分けるという方針に転換しましたが、これは時間の問題でした。

元カルビーの松本氏を迎え入れ、コーポレートガバナンスを強化しようという方針の結果、このタイミングになったと思われます。

RIZAP、70億円の最終赤字 拡大路線を転換

矢継ぎ早に経営不振の企業を買収し、収益を拡大させてきたRIZAPグループの経営が転換点を迎えた。2019年3月期の連結最終損益(国際会計基準)は70億円の赤字となる見込み。14日東京都内で記者会見した瀬戸健社長は「株主をはじめ、ステークホルダーの皆様の期待を大きく裏切ることになった。本当に申し訳ない」と頭を下げた。159億円の黒字との予想から一転して大幅な赤字となる。今後は新規のM&A(合併・買収)の凍結と、不採算部門の撤退も検討する。
2018/11/15日本経済新聞

のれんとブランド力

最後に、企業価値とブランド力について考えましょう。

のれんと資産価値

企業を買収してプレミアムを払うときの理由に、「シナジー効果」のほかに、「ブランド力が欲しい」と説明されることがあります。

cola

たしかに、ブランド力は存在します。

顧客も企業側も「それがどんなブランドなのか」説明することは難しいですし、数字で価値を測ることも難しいですが、必ずあります。

このブランドは、強力であればあるほど、構築していくのに時間がかかります。
自社が同じような魅力的な商品を作ったとしても、ブランド力があるのとないのとでは競争力が全く違います。

これに対抗するには、時間をかけるよりも「買収するしかない」です。

コカ・コーラのブランド力
最強のブランドを持っている企業のひとつがアメリカのコカ・コーラ社です。

私の大好きなビジネスモデルです。

なぜなら「コカ・コーラ」というブランドイメージを維持することで、味や品質は変えず、大きな追加投資もせず、超低い原価の甘い炭酸水に大きなプレミアムを付けて顧客に売ることに成功しているのですから。

味は似ていたとしても、「ペプシ・コーラ」と記銘されている缶よりも、「コカ・コーラ」の方が売れるのです。

私たちがコカ・コーラのロゴを見たり、炭酸の弾ける「シュッ」という音を聞いたりするときに条件反射的に蘇ってくるイメージは、明るく、楽しく、健康的なものです。

コカ・コーラ社は研究開発よりもマーケティングを重点的にすることで築かれたブランドです。

ライバルがいくらお金をかけたところで、コカ・コーラ社が築き上げてきたブランド力に対抗する勢力を育てることは出来ません。
あらゆる購買行動の中で、人の味覚習慣は最も保守的です。

コカ・コーラという商品は時間をかけて私たちの文化の地位にまで上り詰めました。
今後すくなくとも数十年間はその文化が変わらないでしょう。

会計では測れない価値も重要
コカ・コーラ社のバランスシートにはこの優れたブランド力は資産として計上されていません。

仮に誰かがコカ・コーラ社を買収したとしても、ただ買収のプレミアムが、ブランド力も含むのれんとして計上されるだけです。
(2017年1月で時価総額が20兆円なのでそんなことは考えられせんが)

しかも、日本の会計基準では買収プレミアムがバランスシート上では年々資産価値が減っていくことになります。

このように、会計ルールはあいまいで、「のれん」をめぐるルールも疑問は多々あります。

私たちが企業を見る時は、財務諸表だけではなく、コカ・コーラ社のブランド価値のように、その会社の真の力を考えるべきでしょう。

企業の稼ぐ力の源は、資産として計算できる工場や機械だけではなく、実際はブランド力などの「目に見えない資産」というパターンが多いのですから。

のれんのまとめ
  • のれんとは、買収時のプレミアム
  • 日本会計基準は定期償却
  • 国際会計基準は適宜に減損
  • 国際基準の減損は「いつ」「どれだけ」するか基準があいまい
  • 2018年10月国際会計基準が定期償却の検討を開始

(参考文献)
IFRSに異議あり」岩井克人著

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