このページでは、企業価値を向上させる要素、3つのバリュードライバーについて解説します。
バリュードライバーとは、企業価値を向上させる重要な要素です。
経営者、ビジネスパーソンが目指すのは利益の拡大、その結果としての企業価値の向上です。
投資家もそのような企業に投資したいと考えています。
また、事業売却でも企業価値の高い企業は有利です。
- 企業価値を高める要素が知りたい経営者
- 企業価値の評価で重視すべきポイントが知りたい投資家
ですから経営者も投資家も、「企業価値を高める要素」と、「企業価値を高めない要素」と区別しなければなりません。
バリュードライバーを正しく知れば、経営でも投資でも優先すべきポイントがわかります。
MBAビジネススクールのファイナンスで教えているような、企業価値を向上させる3つのバリュードライバーを解説します。
目次
バリュードライバーとは何か
企業価値は企業が抱える資産価値と将来の利益(現金)の合計ですから、良いバリュードライバーとはこう言えます。
「追加的投資に対して、それを上回るリターンを上げてくれる力」
言い換えれば、
- 投資によって、どれくらいの実質リターンをあげるのか
- この投資は、投資額に見合った利益(現金)を稼ぐのか
ということです。
シェアやガバナンスや技術力など、それ自体ではなく、「それらがどのように利益に結び付くのか」がポイントです。
主なバリュードライバーの3つとは、
バリュードライバーの3つとは、
- リターン
- 成長
- 資本コスト
です。
経営者や投資家は、これら3つの要素を評価するべく、汗水たらして苦労していると言っても過言ではありません。
この評価を誤らなければ投資家は判断をミスを大幅に減らすことができます。
企業価値を向上させないもの
企業価値を向上させないもの=「何がバリュードライバーでないか」を知り、そこに貴重な経営資源を投入しないことも重要です。
- 売上高の成長(シェア)が企業価値を高めるわけではありません。
- イノベーションが企業価値を高めるわけではありません。
- コーポレートガバナンスが企業価値を高めるわけではありません。
売上の成長やイノベーションなどだけが理由で、経営判断を誤ってはいけません。
かつてのシャープや日産のように、技術力が高くても利益に苦しんでいる企業はたくさんあります。
企業価値と新規投資
M&A、新規投資、事業ポートフォリオ検討の時も、バリュードライバーを軸に考えなければなりません。
50円の価値しかない企業を、100円で買収してはいけません。
資産が50円減ることを意味します。
追加的な投資によって、将来の見込みがない利益率が低いビジネスに投資してはいけません。
50円の利益しか生まない事業に100円を払ったらその時点で50円の損です。
どちらも株主にリターンをもたらすどころか、資本を損ないます。
リターン率
ある企業Aに100を投資して20のリターンがあれば、企業価値は120です。
企業Bに200を投資して40のリターンがあれば、企業価値は240です。
これらはどちらもリターン率が20%です。
投資先として魅力度は同じなので、比較にはあまり意味がありません。
衝撃的事実「成長が企業価値を損なうこともある」
では、企業Aに200の投資をすれば、企業Bのように40のリターンを生み出してくれるのか?
現実は成長によってシェアが頭打ちになり、あるいはコストが急激にかさんでしまい、企業Aへの150の投資で28のリターン(18%)、200の投資で30のリターン(15%)と、徐々に投資で得られる効用が減っていくことが良くあります。
経営者などビジネスパーソンにとっては衝撃的です。
単に売上高やシェアが成長したからと言って利益率が増えるどころか、減ってしまうこともあるのです。
企業価値とドラッガーの教訓
ドラッガーが言っています。
市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である
「マネジメント【エッセンシャル版】――基本と原則」 ドラッガー P31
市場の中で独占的地位を握りすぎると、健全な競争が生まれず、革新が起こりづらくなってしまう。
すると消費者の目には不便で独善的に映り、市場そのものの成長が止まってしまう。
このような趣旨で述べています。
闇雲なシェア争いが、市場をダメにするのと同じように、過度な投資がリターンを生む力を損ねることもあるのです。
このように、「バリュードライバー」と「バリュードライバーでないもの」の区別は非常に重要です。
企業価値向上の3つの要素
企業価値を高めるものと、そうではないものを区別して、企業価値が高いかどうかだけを判断しなければなりません。
バリュードライバーの3つ、
- リターン
- 成長
- 資本コスト
について解説します。
企業価値向上とリターン
リターンとは、「事業に投資された資本のうち、どれだけの収益を上げられることができているのか」です。
ROEは、株主資本利益率で、株主資本に対する純利益(リターン)を示します。
これは1つの役に立つ指標ではあります。
しかし、これを加工することで更に良い分析ができるようになります。
純利益に注意
ただし、リターンを純利益としている点に問題があります。
会計上の利益と、企業が1年に稼いだ現金は必ずしも一致しません。
投資家が知りたいのはあくまでも現金を稼ぐ力です。
「純利益」だけを見るのではなく、財務諸表を読み込んで、なるべく正確な現金収入を測る必要があります。
株主資本に注意
ROEの分母である、株主資本の考え方には、いくつかあります。
バランスシートの資本金・資本剰余金・利益剰余金・自己資本で構成される「株主資本」を分母にするやり方。
総資産から負債総額を引いた「純資産」をそのまま分母にするやり方。
後者なら「新株予約権」(ストックオプション)や為替・有価証券などの「評価・換算差額等」も含めることになるので、その点は注意すべきです。
ストックオプションは報酬=人件費という意味合いが強いですし、評価・換算差額等は投資というよりも事業のプロセスで生まれたコストにすぎないからです。
これは株主が投資した額とは直接的には関係ありません。
いづれにしても、注意が必要なのは、株主資本がそのまま事業にすべて投資されているわけではないということです。
お金が余っていて使い道がなかったり、事故などもしもに備えて、現金や有価証券として留保している企業は多いです。
その場合、分母である株主資本が必要以上に膨らんでしまい、ROEが上がりづらくなります。
これを防ぐには、財務諸表の支出を見て、仕入れ、営業や設備投資にどれだけ支出があったのかを注意深く見ることで、株主資本のうち、どれだけが有効活用されていて、どれだけが使われていないのかを分析するのが良いです。
企業価値向上と成長
成長とは、収益の成長のことです。
売上やシェアの成長そのものではありません。
売上やシェアが成長しても良いですが、投資家にとってはそれがリターンにつながらなければ意味がありません。
これが、150の投資で35のリターン(23%)、200の投資で60のリターン(30%)と、徐々に投資で得られるリターンが増えてゆくこと、これが収益の成長です。
これは非常に優れたビジネスモデルを持つ例です。
つまり、追加的な投資があまり必要でない固定費の低いビジネスで、売上規模を拡大するためのコストも比較的かからず、おまけに規模の経済を発揮できるという企業です。
このような優れたビジネスを持つ企業にはいくつか条件があります。
- 1 シェアを拡大することで、規模の経済により固定費が相対的にかなり減らせる
- 2 顧客を引き留めておいて、新規顧客も獲得できる需要優位性がある
- 3 継続的な追加投資がそれほど必要でない
- 4 世界的ブランドイメージなど、他社が簡単に真似できない競争優位がある
グーグル、アップル、ニトリ、キーエンスなどの企業は、成長とともに、株価も大きな値上がりを見せてきました。
「収益の成長」は3つのバリュードライバーの中でも、特に強力です。
企業価値向上と資金調達のコスト
資金調達のコストとは、投資家から投資をしてもらうために最低限必要なコストのことです。
たとえば配当金の市場平均が投資額の3%なら、自社も最低で3%は出す必要があります。
もし投資家が、「自社への投資にはリスクがある」と判断したら、リスク分を上乗せしなければなりません。(リスクプレミアム)
投資家は、1つの企業だけでなくあらゆるあらゆる銘柄を見てますし、株だけでなく債権や不動産も検討する人もいます。
その中で自社を選んでもらうためには、他社と比べてより魅力的な条件を出す必要があります。
投資家目線を付けたいあなたは、その企業だけでなく、
「市場平均で最低どれくらいの利益水準が求められているのか?」
「この企業はその水準を満たしているのか?」
も考えた方がよいでしょう。
リターンが多いのに、株価が低い企業はリスクが高すぎるので敬遠されているのかもしれません。
リターンが少ないのに、株価が高い企業はリスクが低いため好まれているのかもしれません。
やや専門的な話ですが、これも「企業が資本を効率的に活用しているのか」「株主還元は十分か」を判断するための重要な指標です。
ほかのページでも「企業価値とは何か」「企業価値の計算方法」など、参考になる解説をしていますので合わせてお読みください。
- バリュードライバーとは、企業価値を向上させる要素
- バリュードライバーは、リターン、成長、資金調達コストの3つ
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