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トレーダー朝倉
役員報酬、きしむ日本流 「ゴーン問題」で注目 水準・透明性に課題
日産自動車元会長カルロス・ゴーン容疑者の問題を受け、高額批判も出ている役員報酬。ただ、主要企業のトップの報酬を比較すると日本は米国の1割程度にとどまり、国際的には低い水準にある。経営者も含めた人材獲得のグローバル競争で後れを取る恐れがある。役員報酬を適切な水準へと見直していくべきだとの指摘があり、同時に決定過程を透明にするといった対応も課題となる。
日本経済新聞 2018/12/1
トレーダー朝倉
日産ゴーン氏の件は、本当に色々な要素があるが、ここではあえて二つの要因で考えよう。
日産とコーポレートガバナンス
この記事は、トップの報酬の決め方について課題提起をしているが、これを説明するために二つのコーポレートガバナンスについて解説しなければならない。
1.法的な不正行為を防ぐためのコーポレートガバナンス
2.報酬・人事の暴走を防ぐためのコーポレートガバナンス
法的な不正行為を防ぐためのコーポレートガバナンス
「監査役」とは、会社法にからんでやや複雑でわかりづらいが、コーポレートガバナンスの問題が起こった時に、必ずといっていいほど出てくる議論なので、覚えておいて損はないキーワードだ。
そもそも監査役会とは何?というと、「経営者がちゃんと経営しているの?」「不正行為はしていないの?」「財務諸表を改ざんしていない?」というチェックを行う組織だ。
上場企業なら取締役会の中に、必ず監査役がいて、経営に目を光らせている。
監査役は資格は特に必要ないが、弁護士や公認会計士がなることが多い。
監査するにも、法律を遵守しているのか(コンプライアンス)や、不適切な会計処理がないかどうかは重要なポイントになるからだ。
監査法人と呼ばれる組織は、年に一度公開する「有価証券報告書」で間違いや虚偽がないかどうかをチェックすることになっている。
そして監査法人からお墨付きをもらって、株主に「この会社の決算書は信頼に足りますよ」と開示され、投資家は内容を信頼できるわけだ。
日本ではEY新日本、トーマツ、PwCあらた、あずさが4大監査法人と呼ばれていて、大企業からの依頼を受けている。
で、おさらいだけど「この監査役会の目的は何?」というと「会計や法律的にちゃんとルールに則っているかどうか」をチェックすることだ。経営者は株主の重要な財産を預かっていて、会社は社会的な役割もあるから。
これがコーポレートガバナンスを機能させるための、体制の話。
不正会計が起こってしまった東芝はやオリンパスは、この会計処理の監査の点でコーポレートガバナンスが機能していなかったということになる。
日産のゴーン氏の件と比べてみよう。
最初の記者会見で明らかになったゴーン氏の不正は、
- 報酬の過少申告
- 投資資金を私的に流用
- 不正目的で経費を使用
とある。
これは上の話と基本的に同じで、監査役が「経営者のイカサマ」や「有価証券報告書の虚偽記載」を見抜けなかったという問題がある。
報酬・人事の暴走を防ぐためのコーポレートガバナンス
ここからやっと記事の話に入れる。
この記事の主旨は、「会社トップの報酬の決め方が不透明」だと問題提起をしている。
実は経営トップの報酬には法的な上限はないし、決め方も細かい決まりがあるわけではない。
株主総会で、役員報酬の総額が承認されれば、あとはどう分配しようが構わない。
日産ゴーン氏の件は「報酬を過少申告した」という点で虚偽記載だと咎められているわけで、どれほど高額な報酬であろうが、ありのまま記載していれば法的には問題なかった。
まあ、株主や従業員がどう思うかは別問題だけどね。
ここに、コーポレートガバナンスの課題がある。
報酬がどれくらいが適切かというのは難しい問題なのに、日産の場合はゴーン氏が自ら決めて、誰もそれに口出しできる状況ではなかったわけだ。
報酬や人事は、本来中立的な立場の人間が客観的に判断して報酬を決めるのが良いとされる。
自らの報酬を自ら決めると「適切な額」よりも「欲しい額」になってしまうことはあるからだ。
その課題を解決するために、監査役会とは別に、「委員会」を設置するのが最近の流行りだ。
委員会は、細かい話は避けるが監査・人事・報酬のそれぞれを組織することがある。
つまり、監査委員会と、人事委員会と、報酬委員会の三つを抱えるわけだ。
こうすることで、不正行為をしていないかのチェックは監査委員会が行い、人事や報酬はそれぞれの委員会が行うことで、取締役どうしの相互チェックができる。
トップ自ら独断で決めないため、常識的な金額に収まることが期待されるし、議論があるだけでもその経過や基準を記すことで透明性が担保される。
組織は増えるし複雑になってしまうが、まあチェック機能という点では悪くない制度だと思われる。
で、この日経新聞の記事は「委員会設置会社は上場企業のうち26%の932社に留まる。これはコーポレートガバナンス上は適切なの?」と問題を投げかけている。
でもね……。
制度はあくまでも制度でしかない。
東芝は先進的な制度を作っていてもてはやされていたけど、不正会計を見抜けなかった。
中立的にモノが言える社外取締役を入れたって、会社の内情を把握するにはハードルがある。
委員会を設置しても、強烈なトップなら息のかかったメンバーで固めるとか自分に有利にするための方法はいくらでもある。
株主は経営者に自分の財産を任せて、良い結果を望むんだけど、その経営者が倫理的にちゃんと働いているのかというのは永遠のテーマで、「エージェンシー問題」(代理人問題)と呼ばれている。
制度がよければ必ず最高の結果になるってわけでもないし、制度が悪くても経営者が人格者で優秀なら全然問題ないってこともある。
委員会は魔法の杖ではなくて、あくまでも「今の所、無いよりあったほうが良いかもしれない」という程度のものかもしれない。
最後は経営者の倫理に行き着いてしまうのが、コーポレートガバナンスの永遠のテーマ。
コーポレートガバナンスの本質は、実はアナログだ。
これを解決したらノーベル経済学賞を狙えるし、多分人事コンサルタントで大成功できる。
トレーダー朝倉
「委員会」と「エージェンシー問題」、覚えておきます!
アキ
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